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神が潜むデザイン


第19回:『デザイニング・プログラム』にみる可変と拡張 / 市東 基


「神は細部に宿る」と言いますが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた作品を紹介していただくとともに、ご自身のこだわりを語っていただきます。リレーコラムですので、執筆者には次の方にバトンを渡していただきます。



Designer FILE 19

市東 基(しとうもとい):アートディレクター。1981年北海道生まれ。2013年フリーランスとして独立。2016年にブランディング・デザインコンサルティングを主軸としたSitoh inc.を設立。企業理念・哲学を最大化した文脈を抽出し、クリエイティブによって世界観を体現する企業スタンスの構築に取り組む。主な仕事にリンナイ G: LINE・SPBS・THE GATE・all day placeのブランディングデザイン、SONYオーディオ・ベネッセほっぷEnglishのアートディレクション、för ägg・hocus pocus・石田珈琲店のパッケージデザイン、ISOTYPE・D2C・MdN新世代デザイナーズファイルのブックデザイン、Dolby Art Series・I'M POSSIBLEのアートワークなどがある。@sitoh_inc

●『デザイニング・プログラム』

「デザインのプロセスこそをデザインすべきだと説いた、スイス派伝説のデザイナー、カール・ゲルストナーの設計方法論」。2020年にビー・エヌ・エヌ新社から『デザイニング・プログラム』(著者:カール・ゲルストナー/監訳:永原康史/翻訳:ヤーン・フォルネル)が新訳で復刊しました。

私はブックデザインとしてこの取り組みに関わることになりました。2016年にジョセフ・アルバースの『配色の設計 色と知覚の相互作用』、2017年にオットー・ノイラートの『アイソタイプ』に続いての名著の日本版ブックデザインのため、制作プロセスでは少し緊張感を持ちながらデザインに向かったことを思い出します。


ここでこの新訳版カバーデザインのプロセスについて少し触れておきます。
「形態学/論理/グリッド/写真/文学/音楽/書体/タイポグラフィ/描画/メソッド」。これらのプログラムを表紙に掲載したカバーデザインは、1964年の初版デザインにもかかわらず、現在でもコミュニケーションやタイポグラフィとしても秀逸です。この原書デザインの表現を損なうことなく、日本語との共存を探り始めました。

着目したのは冒頭の「極東からのプログラム」。日本の朝倉直巳さんが送った日本語書体からゲルストナー氏が魅了された図だという。この部分に対する詳しい解説は多くありませんが、本書の中で唯一日本語との関わりを持つページでした。そこから日本語書体の組みや漢字・ひらがな・カタカナの形態プログラムを設計し、日本とスイスをイメージした配色と組み合わせることで新訳版のカバーデザインの完成としました。


『デザイニング・プログラム』新訳版。(クリックで拡大)

ゲルストナー氏が魅了された日本語書体の図。(クリックで拡大)


初めて「デザイニング・プログラム」という言葉に触れた方にとっては、一体これは何なのか?デザイン?プログラム?私もその疑問の中にいました。本書ではこのように説明をしています。
「デザイニング・プログラムとは、方法でありアプローチである。個々の問題にはいくつかの解決策があり、ある状況下ではそのうちの1つが最適解となる。解決策を含むプログラムをデザインすること。これは人生の哲学というより、実践に根ざした考察である。それが実際にどのようなものであったかを具体的に解説することが本書のテーマだ」。

これは難しそう。そっと本を閉じてしまいそうですが、クリエイティブを当事者として携わる方々には、感性だけではない創造の裏付けや上澄みではないデザインの真価に触れる学習アプローチのように思います。


●統合的タイポグラフィ

『デザイニング・プログラム』には「タイポグラフィとしてのプログラム」があり、中でも「統合的タイポグラフィ」はとても実践的な理解のできる方法でした。本書には統合的タイポグラフィの要約が掲載されています。

(1)統合的タイポグラフィは、新しい統一性、優れた全体のための、言語と書体の関係である。テキストとタイポグラフィは異なったレベルの連続するプロセスではなく、互いに浸透しあうエレメントだ。
(2) 統一はさまざまな段階で達成されており、以下の各項目はその前の項目を含んでいる。
・さまざまな記号、さまざまな文字を単語に統一すること。
・さまざまな単語を文字組みに統一すること。
・さまざまな文字組をそれを読むための時間の流れに統合すること。
・個々の問題と機能を統合すること。

こちらもまた難しそうですが、実例記載のある「boîte à musique」「Bech Electronic Centre」「Holzäpfel」は、2015年にExperimental Jetsetが平面的な線の視点や距離を可変することで空間構成したホイットニー美術館のアイデンティティ「The Responsive W」をはじめ、2020年にCOLLINSとDinamoがレスポンシブフォントやバリアブルフォントの技術を使い、音や音楽に反応してタイポグラフィが変化するような動作を開発したサンフランシスコ交響楽団のアイデンティティのように、現代グラフィックデザインに不可欠な「可変と拡張」そのもののように感じました。

「Holzäpfel」の場合、基本のシンボルマークの構成要素はすべてを四角い箱で頭文字のHの造形を作っています。そして決められた四角い箱を単位ごとに変化させることでプロポーションを作れるシステムで、シンボルマークが可変をしても商標を失わない記号構造のデザインとなっています。

この考え方は、ブランディングデザインにおけるアイデンティティ構築からシンボルマーク・グラフィック・オンスクリーンを可変しながら全体の統一性を維持し拡張していく文脈に通じると思います。


シンボルマークとバリエーション。(クリックで拡大)

シンボルマークの展開。(クリックで拡大)


「タイポグラフィとしてのプログラム」の最後にはこのように綴られていました。
「私たちに今できること、そしてしなければならないことは、受け継いだ原則を変えることではない、それを新しい問題に拡張することだ。基本的なもの、機能的なものから構造的なもの、統合的なものへ。これこそが新しい基準の原材料となる」。

過去と現在を照らし合わせながら、この意味や答えを反復し抽出することで、デザインにおける真価を見出していくことが必要なのだと思います。


●参考
「Whitney Museum」Experimental Jetset:
https://www.jetset.nl/archive/whitney-museum-identity
「San Francisco Symphony」COLLINS:
https://www.wearecollins.com/work/sf-symphony/




次回は香取有美さんの予定です。
(2022年4月7日更新)

 

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