●フランスMONOPRIXの商品デザイン
ここ数年、「デザインの敗北」というワードをよく目にする。公共の場に置かれるミニマルなデザインに対して、補足シールがベタベタ貼られてしまう件だ。その度に私はフランスのスーパーマーケットMONOPRIX(モノプリ)のPB(プライベートブランド)商品のことを思い出す。
2011年にCannes Lions(旧称:カンヌ国際広告祭)で金賞を受賞した、商品シズルを表すカラフルな色面とそれを埋め尽くすタイポグラフィで構成された数々の商品を初めて見た時、「かっこいい!」と私は衝撃を受けた。そして2013年にカンヌ国際広告祭に参加するためフランスを訪れていた私は、これらの商品を買うために受賞式の合間をぬって地元のモノプリへと走った。
2010年のリニューアル時のパッケージ。「PIZZA」「CAFÉ」など大きく商品名が書かれている。(クリックで拡大) |
|
|
すると、あるある、メーカー商品に混ざって異彩を放つあの商品が! 私はとても興奮した。2010年のリニューアル時には色面と文字だけで構成されていたのが、シズル写真が追加されたりマイナーチェンジはされていたものの、その存在感は未だ健在だった。
パッケージ下部に添えられた一文もエスプリが効いている。例えば110枚入りのティッシュボックスには「大きな悲しみを抱える人に110枚のハンカチを」と書かれていたり、リニューアル後売上を20%伸ばしたトマト缶には「人は退屈な時トマトの皮を剥く(しかしそう簡単に剥くことはできない)」など。さすがフランス人、この遊び心はにくい。
MONOPRIXの缶詰のグラフィック。商品だけでなく店頭POPや屋外広告も全て色面構成で統一されている。(クリックで拡大) |
|
|
そしてウキウキした気持ちで紅茶の箱を手に取ると、「あれ?」と思った。なんだか紙質が安っぽいのだ。商品を棚に戻して一歩下がり、眺める。そして腑に落ちた。他のメーカー商品は付加価値を高めるために華美な装飾デザインや特殊印刷が施されている中、モノプリの質素ともとれる質感の商品は「高品質の物を低価格でお客様に届けたい」という強いメッセージを発していた。私は2度目の衝撃を受け、紅茶の箱を3つほど買い物かごへ投げ入れた。
2018年にMONOPRIXがバレンタインに合わせて制作した、自分の電話番号を書いて相手に渡せるパッケージ。プロモーションムービーも可愛い。(クリックで拡大) |
|
|
●デザインの神様の優しい眼差し
私はデザインを考えるときに、なるべく「視座」と「解像度」の2つを意識するようにしている。2つは密接しているが、おおまかに説明すると「デザインアイデア」と「デザインクオリティ」だ。後者だけで考えてしまうと、ついつい近目になってしまい、デザインディテールに走った結果、大を失う。いわゆるデザインの敗北だ。それで前者に注力しようとすると、アイデアは良いけれど仕上がりがイマイチな物になってしまう。このバランスはとても難しい。
それを軽やかに解決し、デザインの勝利を収めたのがモノプリのPB商品だと思う。カラフルな色面と大きく配置されたタイポグラフィで構成されたパッケージデザインは判別が付きやすく、視力の落ちた高齢者や共働きの忙しい夫婦、外国人にも優しい。
そして何より、「日々の生活はルーティンではない」というモノプリの企業メッセージを商品全体で発しているので、それを家の棚に並べるだけで、とても楽しい気分にしてくれる。そこにはさまざまな人生を送る生活者の目線に立った、デザインの神様の優しい眼差しを感じることができる。
日本には八百万の神がいると言うけれど、デザインの世界にも八百万の神様がいると思う。その目線は、自分の家族だったり、友人だったり、海外からの客人だったり、きっと自分の身の回りの大切な人たちの目線なのだ。
次回は村上雅士さんの予定です。
(2022年2月17日更新)
|