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神が潜むデザイン


第16回:想定内、そして想定外の可能性/居山浩二


「神は細部に宿る」と言いますが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた作品を紹介していただくとともに、ご自身のこだわりを語っていただきます。リレーコラムですので、執筆者には次の方にバトンを渡していただきます。



Designer FILE 16

居山浩二(いやまこうじ):アートディレクター/グラフィックデザイナー。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。日本デザインセンター、atomを経てイヤマデザイン設立。商品企画開発からコミュニケーションプランまで、トータルなディレクションを通じたブランディングを中心に、幅広くデザインを展開している。主な仕事に、「mt-マスキングテープ」、キャンドルブランド「倉敷製蠟」などのブランディング、資生堂「Holiday Collection」、集英社文庫「ナツイチ」キャンペーン、「東京大学医科学研究所」、NHK大河ドラマ「龍馬伝」などのアートディレクション。英国D&AD最高賞、カンヌライオンズ金賞、SPIKES ASIAグランプリ、ONESHOW金賞、CLIO金賞、NYADC金賞、DESIGN TOKYO大賞グランプリ、日本文具大賞グランプリなど国内外で受賞多数。


●ディテールの追求からはみ出す未知

デザインにおけるディテールというのは、目指す完成形に向かって、経験値や参考例から想定される問題点をクリアしながら、意図する機能や美的価値を具現化するべく、検証を繰り返し、練り上げ、磨き上げ、仕上げられた細部である、というのがそのイメージではないだろうか。通常のデザインワークのほとんどはそのプロセスを経ていると思う。

ただ、そのプロセスからはみ出してしまう事態が生じることも少なくない。しかもそれは計算外であるがゆえ、新鮮な印象をもたらしたりもする。

予期していない、計算できなかった事象、偶然生じたハプニング。未知なる色やカタチが、目を凝らした先に表出していることが見出されると、大きく心が動いてしまう。

印刷のムラや版ズレ、モアレ、ヤレなどがその対象であろうし、デジタル環境でのバグやエラーも含まれる。それらは時として大きな魅力や価値を生み出す。


ムラ。印圧と用紙のアンバランスさが生む。(クリックで拡大)

モアレ。規則性をもった模様のズレから生じる。(クリックで拡大)


バグ。主にプログラムの不具合から表れる。(クリックで拡大)
 


●「グラフィック・トライアル」によるポスター制作


現在、凸版印刷が長く取り組まれている「グラフィック・トライアル」という、印刷表現の探求とその価値を社会に示していくことを目的とした企画に参加させていただいていて、その試作の真っ最中なのだが、バグ的な思わぬ表現が発生する手法でポスターの制作を進めている。

そもそも印刷は網点が主体となる表現なのだが、その網点を「点」ではないカタチでつくることができたらどんな表現が可能なのか? というのが発想の元となっている。近年凸版印刷さんから、用いられる機会の少ない印刷技法を紹介していただく機会があり、その中でヒントとなる技術を知ったこともきっかけとなっている。


テスト1:偶然生まれた規則性を持ったパターン。(クリックで拡大)

テスト2:想定外な配置によるアスキーアート的なパターン。(クリックで拡大)


テスト3:予期せぬ透過した色の重なり。(クリックで拡大)

テスト4:ランダムな図形の集合体。(クリックで拡大)


テスト5:ベタ面に不意に表れるパターン。(クリックで拡大)

テスト6:思わぬ色とパターンの重なり。(クリックで拡大)

デザイナーとして歩み始めて、さまざまな印刷表現を探っていた頃、ひたすら版下作業に明け暮れていた。完成形を想像しながら写植を発注し、紙焼きをし、指定紙を作成していた。

まだDTPなど存在せず、モニターでの検証などできるはずもなかった。刷ってみて始めて触れる色やテクスチャー、ディテールへの喜びや驚き。その感覚を積み重ねることでデザイナーとして身につけるべきスキルを体に染み込ませていった。

グラフィック・トライアルでの検証作業は、薄れつつあったその喜びや驚きの感覚を思い出させてくれている。

世界を見渡してみると、五感で触れられるさまざまなバグが溢れていることに気付く。それらを多面的な視点で見つめてみると、多くの可能性に気付くことがある。それはデザインのみならず、多様なモノやコトにも適用可能な見方だと思う。

想定内と想定外を行き来しながら、発想や表現、広くは社会のあり方についてまで、あらゆる可能性を探り、実践できればと思っている。



次回は清水千春さんの予定です。
(2022年1
月31日更新)

 

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