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Portfolio NOW!

このコラムでは、毎回1人のデザイナーに旬のデザインを見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。

 




Designer FILE 54


黒地秀行

黒地秀行(くろちひでゆき):イラストレーター/画家。1989年兵庫生まれ。2013年多摩美術大学美術学部情報デザイン学科卒業。同年イラストレーターとして独立。フリーハンドによる緻密なペン画で、さまざまなメディアのアートワークや会場のウォールアートなどを手がける。主な作品に銀座ソニービル「”It's a Sony" Exbition Part-2」(2017年)のウォールアート、JRA札幌競馬場の「北海道ステークス 芝3,000km」(2018年)など。
https://kururi-hana.com/



●JRA札幌競馬場地下道ウォールアート
「北海道ステークス 芝3,000km」のUXデザイン

「北海道ステークス 芝3,000km」について

JRA札幌競馬場のスタンドとターフパークをつなぐ地下道の壁に、120mのウォールアートを制作。北海道内の名所をつないださまざまな景色をバックに、札幌ゆかりの勝負服の騎手を乗せた200頭を超えるサラブレッドを描きました。
https://kururi-hana.com/jra-3000km


地下道の左右の壁面に完成したウォールアート。(クリックで拡大)


パブリック・アートにおけるデザインの必要性

イラストレーター、アーティストとして活動していますが、大学では情報デザインを学んでおり、制作のプロセスはデザイン的な思考方法で進めています。

今回紹介するような長期的に設営される大型施設のアートワークを制作するためには、来場者の傾向や施設の動線や特徴、歴史など、さまざまな要因を考慮して構築することがとても大事なことだと実感しています。美術館のように作品ありきではなく、場所ありきでそこに相応しい作品を制作しました。

テーマの設定

ここから制作プロセスを紹介します。札幌競馬場のリニューアルに伴い、中央地下道を改装。壁面に設置されるアート作品が札幌馬主協会から札幌競馬場に贈呈されることに。 はじめは「120mの壁に、北海道の自然と200頭の競走馬を描けないか」という依頼でした。しかし、ただ風景と競走馬が単調に描かれているだけでは、60mの地下道を通る来場者には壁紙のように思われてしまうのではという懸念がありました。

そこで、ほとんどの利用者が地下道を往復することもあり、左右の壁を1つの物語でつなげれば、地下道を歩くだけで来場者に楽しんでもらうことができるのではと考えました。


地下道の鳥瞰図と動線。(クリックで拡大)


札幌競馬場や北海道についてのリスニングや調査の中で「北海道を一周するレースに見立て、背景には各地の景勝地をつなげる」という案を提案しました。

北海道の玄関口でもある「新函館北斗駅」から「新千歳空港」まで北海道を一周するレースで、200頭以上の馬が駆ける背景に北海道のさまざまな景勝地をつなぎました。Aブロックは北海道の自然を、Bブロックは札幌の歴史的建造物を背景にしています。


ウォールアートの構成と動線。(クリックで拡大)


全体像のスケッチ

テーマが固まった時点でウォールアートの内容の確認のため、構成案のスケッチを提出し内容を確認します。


ウォールアートの構成案:構成内容を写真でサムネイルにしています。(クリックで拡大)


構成についてすべて書くと長くなってしまいますが、競馬や北海道ならではの要素をできる限り盛り込んでいます。家族連れや旅行者が多く利用されるとのことでしたので、地下道を通りながら「ここ行ったね!」や「ここはどこだろう?」など北海道について話すきっかけになるようにしていたり、競馬ファンにも楽しんでいただけるよう有名な競走馬なども紛れ込ませています。

細部の確認

さらに実際の大きさを想定して、絵の細かさや子供でも見える高さなど細部を詰めていきました。最終的に競走馬と芝だけ着色していますが、見え方のバランスなどもここで何度も確認しました。


仕上がりイメージ。(クリックで拡大)


原画制作から設営

構成と絵のタッチが決まり制作に入ります。1/10サイズで原画を描き、スキャンし、Photoshopで着色します。原画の制作の様子はタイムラプス動画を撮っていますので、是非ご覧ください。


制作中も、絵の場所や建築物のキャプションや、通路の天井の色や照明など、周辺についての打ち合わせもしました。タイトルの「北海道ステークス 芝3,000km」も北海道一周分のレースということで担当の方に候補を出してもらって決めました。

他にも描ききれななかった要素を地下道入り口の斜路の部分に追加で描いたり、竣工までの時間を目一杯使わせていただきました。


地下道入口の斜路部分。(クリックで拡大)


最後に

最近ではさまざまな分野がより密接になっており、イラストレーターだけでもアニメーションや漫画などのディレクションや、イベントの企画などもできる人がさまざまなメディアで活躍されています。多種多様な能力を持った人たちと何かをつくる中で、デザインという伝える技術がコミュニケーションの手助けにもなっています。

また、受け身になりがちなイラストの仕事ですが、クライアントの目的を捉えて技術やアイデアを提案できるということは、求めらている以上のものを提案できる強みになります。これからもさまざまな分野の人たちと、そこでしかできない作品を常につくりつづけたいです。



次回は新島龍彦さんの予定です。
(2019年9月19日更新)

 

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