●演劇「ウキヨホテル」の劇場版ポスターと物販ポストカード制作
「ウキヨホテル」は、横浜本牧周辺を中心に1920~30年代に実在したダンスホールと娼館を兼ねた大人の社交場「チャブ屋」を舞台にした演劇です。資料の多くが、横浜大空襲で焼けて消失している中、主催者である河田唱子さんがフィールドワークを通して、現地の歴史を掘り起こしながら創作した内容となります。
今回、プロジェクトメンバーの1人であるカメラマンの加藤甫さんにお声がけいただき、7月の公演に合わせて、劇場に飾るポスターと物販のポストカードのデザインを担当しました 。
ロケハンも兼ねて横浜本牧周辺を散策(クリックで拡大) |
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台本に目を通しつつ、劇中の舞台となった現地をリサーチ。「チャブ屋」は主に港に着いた外国人船員と娼婦が一夜を過ごす売春宿としての側面と、食事やジャズの演奏で踊ることができる社交場としての側面があったようです。
谷崎潤一郎や吉行エイスケといった著名人・文化人も利用していたようで、異国文化を取り入れたモダンで洗練した横浜独自の印象を受けました。物語の背景を理解していくなかで、「チャブ屋」で働く女性の様子が印象的だったので、“女性”に焦点をあてて発想を膨らませていきました。
ラフの一部(クリックで拡大) |
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・自立した女性の強さ、美しさを表現した劇場版ポスター
劇場版ポスターは、苦境に負けない”自立した女性の強さ、美しさ”を表現。物語は1930年頃の内容ですが、自立した女性として生きることは現代社会にも重なり、つながる共有キーワードと考え、過酷な環境で生きていかなければならなかった娼婦役ハマコを象徴的に配置しています。当時の時代性を映し出しつつ、現代的な印象に仕上げていきました
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劇場版ポスター完成写真(クリックで拡大) |
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リサーチで分かってきた当時の模様やモチーフを基に構成した装飾(クリックで拡大) |
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印刷は小ロット対応ができて、インクによる紙の隠蔽を活かした表現が可能なUVインクジェット印刷を活用。「メタルック/シルバー」という銀紙に、白インクを使用して印刷しており、光の加減や見る角度によって見え隠れするタイトルや装飾は、インクではなく地の紙で表現しています。闇に葬られつつあった歴史が幻となって現在に現れるような演出を狙いました。
校正紙の様子(クリックで拡大) |
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・ドキュメンタリー調で表現した物販ポストカード
物語で主要となる役者をモデルにしてポストカード(8枚/1セット)を作成。フィクションである物語をドキュメンタリー調に表現しています。撮影ロケ地と自立して強く生きる女性とそれに憧れる女性の関係性だけを設定して、あとは役者とカメラマンが自由に表現していく撮影現場です。
写真のセレクトは、現場で心に残ったカットや役者の自然な所作や表情を大切にして、宣材やグラビアのように感じる写真は切り捨てました。自然体に近い役者の新鮮な一面をファンの皆さんにお届けして、喜んでいただければという想いで制作しました
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物販ポストカード完成写真1(クリックで拡大) |
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物販ポストカード完成写真2(クリックで拡大) |
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包み紙はトレーシングペーパーに印刷(クリックで拡大) |
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撮影はカメラマンの加藤甫さん。今回は、ロケハンをしながらキーワードを共有した上で、細かい指示を控えて、現場の動きをすべて加藤さんにお任せしました。制作をご一緒する方の性格や価値観に合わせて、対応や立ち回りを柔軟に変えるようにしています。
公演後の打ち上げの様子(クリックで拡大) |
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デザイナーに求められる役割が多様化してきた影響なのか、さまざまな専門分野の人とチームとなって動くことが増えてきました。
制作プロセスを気持ちよく築いていくために、自分の専門分野以外について学ぶなど、異業種への歩み寄りが大切と感じます。
これからもデザインを通して、さまざまなヒト・モノ・コトの間をつなぎ、少しでも多くの人達に喜んでもらえるよう精進していきたいです。
次回は長田敏希さんの予定です。
(2018年9月14日更新) |