●アトリエビル「HUNCH」のロゴ、サイン、Webデザイン
蒲田(東京都大田区)にあるビルをコンバージョンし、アトリエビル「HUNCH(ハンチ)」が生まれました。今回はそのビルのオーナー会社からのご依頼で、「HUNCH」のロゴ、サイン、Webなどのデザインをした時のお話です。
ロゴデザイン
-構造、もしくは器としてのロゴ-
・HUNCHとは
アトリエビル「HUNCH」は、アーティストを含むさまざまな業種のクリエイターがものを生み出す場として作られました。建物の名称である「HUNCH」には2つの意味があります。1つはこの建物の特徴でもある耐震補強のパーツ「ハンチ(HAUNCH)」、もう1つは予感、直感、第六感などの意味を持つ「ハンチ(HUNCH)」です。
・特徴のないロゴ
シンプルで存在感がある、モノ作りの場らしさ、あらゆるものを受け入れてくれる器、スタイリッシュになりすぎないことがクライアントからの希望でした。
上記を踏まえてロゴのデザインを考えるにあたり、特に2つの点にこだわりました。
・骨太な骨格感(建物の構造から)
・スタイリッシュになりすぎない(蒲田の土地性を踏まえて)
そもそも「HUNCH」はあくまでも場であり、ここに集まってくるクリエイターたちによって「HUNCH」の性格や表情が現れてくるようにしたいという思いがありました。そう言った意味でも建物と同様にロゴはできるだけシンプルにする必要があり、最終的にはHelvetica Neueをベースに、より骨太な印象になるように何度も微調整を繰り返していきました。
出来上がったロゴは、ぱっと見た時の印象は特徴がなく、どこかでみたことがあるような…と思う仕上がりになっています。デザイナーとしては、ついついほんの少しでも特徴を持たせたい気持ちにもなりますが、特徴がないことが「HUNCH」のロゴとしては正解なのです。
写真1:ロゴ制作中の風景 1回目の提案の一部(クリックで拡大) |
|
|
写真2:ロゴ制作中の風景 最終時の候補(クリックで拡大) |
|
|
写真3:完成したロゴ(クリックで拡大) |
|
|
サインデザイン
-「もの」や「こと」を生み出すための“呼び水”としてのサイン-
・“呼び水”としてのサイン
ロゴはいかに特徴をなくし、建物と同様に器として徹することができるかを追求しましたが、サインは「HUNCH」に入ってくるクリエイターたちが「HUCNH」の可能性について想像を膨らませてくれるようなものにしたいと考えました。無機質な建物の中で、クリエイティブな気持ちを掻き立てられるような“呼び水”としてのサインです。
写真4:サイン計画時に制作した資料(クリックで拡大) |
|
|
・サイン制作のルールづくり
今回「HUNCH」のために作ったサインは6種類あります。
・ネオンサイン
・看板
・入居者表示とメールボックス
・フロアサイン
・トイレや特殊作業室などのサイン
・1Fに入店してる鳥から揚げ屋のロゴ、暖簾、床面のデザイン
サインとは建物に訪れる人に建物や建物内の位置、用途をスムーズに伝えるためものです。そのためデザインや素材に統一感を持たせることが多いのですが、HUNCHのサインは“呼び水”としてのサインなので、1つひとつのサインにどのようにモノ作り感を持たせるかが課題でした。クライアントと話し合いを重ね、サインを制作するルールを決めました。
・素材自身が持っている良さを活かす(色、質感、特性など)
・オリジナルで作る(その道のプロ[職人]にお願いする)
・シンプルで骨太さがあるゴシック書体を使用する(欧文:Helvetica Neue 和文:ヒラギノ角ゴシリーズ)
このようにして完成したサインが以下の写真のものになります。
写真5:エントランスとネオンサイン(クリックで拡大) ネオン管は職人の方が図面を見ながら手作業で曲げて製作。ネオン製作:アオイネオン株式会社 |
|
|
写真6:看板(クリックで拡大) 1枚の銅板を叩いてロゴを浮き出させて、独自の釉薬につけて着彩。経年変化を楽しめる素材を選びました。看板製作:玉川堂 |
|
|
写真7:メールボックスと入居者表示(クリックで拡大) 家具職人の山口陽介さんが設計、製作。建物の無機質な素材と木材の質感が対比されて、モノ作りをする人の温もりを醸し出しています |
|
|
写真8:入居者表示(クリックで拡大) 入居者の在否を確認するための札は、7種類の木材を使用。直接木材に印刷をすることで文字を際立たせました。印刷:株式会社ショウエイ |
|
|
写真9:フロアサイン(クリックで拡大) 真鍮で製作した数字を各階のエレベーター手前の床に設置。看板と同様に経年変化を楽しめる素材を選びました。フロアサイン製作:協栄メタル工業株式会社 |
|
|
写真10:トイレのサイン
(クリックで拡大) 他のサインとは異なり、デザインを極力シンプルにすることで建物の一部として見えるようにしました |
|
|
写真11:鳥からあげ うえ山 ロゴ、暖簾、床のデザイン(クリックで拡大) 店主のお嬢さんが描いた絵と文字をロゴとして精緻化し、暖簾を製作。また、入口の床には実物の鶏の足を使って、お店に入っていく足跡をつけました |
|
|
Webデザイン
-見る人に“予感”を感じさせるWebサイト-
・成長の過程を伝えるためのツール
建物、場としての「HUNCH」の情報をシンプルに伝えるとともに、「HUNCH」がクリエイターたちによって今後どのように変化しどんな場になっていくのか、その成長していく過程を伝えることもできるWebサイトを作ることになりました。
・“予感”を感じさせる写真
Webサイトを見た人が、HUNCHってなんだか面白そうだな…、と期待してくれる要素(予感)を散りばめたデザインにしたいと考えました。紙媒体とは異なり、サイトを見る環境によってサイズも文字組も変わってしまいます。私は普段グラフィックの仕事が中心のため、質感や余白などで世界観を作ることができないWebデザインは正直あまり得意ではありません。そんな中、Web制作会社の方と話したり、さまざまなサイトを見ているうちに、Webの魅力の1つに「写真で魅せる」があることに気づきました。でも、ただ綺麗な写真を掲載するだけでは面白くありません。HUNCHらしさは何だろう? そう考えて出てきたのが以下の2つになります。
1.「HUNCH」のドキュメント写真を掲載していく
「HUNCH」が成長していく過程をドキュメントとしてフォトグラファーに撮影をしてもらい、その写真の一部をWebサイトのTOPページに掲載、長期間にわたり定期更新していくことにしました。Webサイトが「情報を伝えるため」のものだけではなく、「クリエイティブな場」として存在できたら、それはとても「HUNCH」らしいのではないでしょうか。
2.入居しているクリエイターたちにも参加してもらう
「HUNCH」に入居しているクリエイターたちは、職種も年齢も異なります。それぞれ活動が忙しく一同が集まって何かを作りあげる時間を持つのは難しい、でも「HUNCH」の一番の担い手はクリエイターたちなのだから、Webで何かできないか…と考え思いついたのが、動くポートレート写真でした。作りはとても単純で、GIFアニメになるように各クリエイターのポートレート写真を撮影するだけです。はじめは皆さんポーカーフェイスばかり。でも慣れてくると少しずつ表情にバリエーションが出てきて、その人のキャラクターが垣間見えてきました。最終的に仕上がったWebサイトを見てもらうと一目瞭然ですが、クリエイターたち各々の個性が立って見える仕掛けになっています。
写真13:ポートレート写真(クリックで拡大) カーソルを合わせると人物が振り向きます。写真:和田 浩
|
|
|
最後に
「HUNCH」の設定として、
・ものを生み出すことを優先させること
・自治で運営すること
・緩やかなレーベルとして、ときには社会にメッセージを発信すること
の3つがあるそうです。
通常の仕事では考えられないほど、何よりも“クリエイティブ”を優先してデザインを考える仕事でした。好きなことをしていいよ、と言われるほど、自分に託される責任は大きくなると思っています。上に記載した「HUNCH」の設定はとても理想的な場に感じますが、これを実現していくには常に自らが思考し、ものを生み出し続けていかなくてはいけません。
今回の「HUNCH」の一連の仕事は自分が「ものを生み出すこと」を生業としているのに対して自問自答する機会となりました。凝り固まった頭をほぐしながら、でもやはりデザイナーとして「人に伝える」ということも意識しながら…入居こそしていませんが「HUNCH」の一員になった気持ちでデザインに関われたのはとても幸せなことです。
アトリエビル「HUNCH」
事業主:醍醐ビル株式会社
企画:ソシオミュゼ・デザイン株式会社
運営:HUNCH、ソシオミュゼ・デザイン株式会社
Web サイト:http://hunch-label.com
写真:高野 駿
次回は清水龍之介さんの予定です。
(2017年9月15日更新) |