●備後絣リブランディングプロジェクト
絣(かすり)と聞いてピンと来る方はどのくらいいらっしゃるでしょうか、もんぺで思い浮かぶかもしれない、あの#柄。普段の生活ではあまり馴染みがありませんよね。日本三大絣の1つである備後絣は、広島県福山市新市町一帯で江戸時代に始まり、戦後は全国一のシェアになるほど量産されていましたが、現在伝統製法を守り生産を続けているのは織元2社のみ。岡山で生地卸を営む番匠二代目小林さんが、備後絣の肌触りの良さに魅了され、絶やしてはならない! と、このプロジェクトが動き出しました。
一言に“備後絣”と言っても、それは製法の意でもあり、同じ素材と織り方で絣模様がない生地も織られています。無地もあればストライプやギンガムチェックもある。絣模様がないものとは、つまり綿や絹で織られた通気性のよい上質な生地、ということ。リブランディングのファーストステップは、その中から現代に受け入れられそうな生地をピックアップし「備後節織(びんごふしおり)」という派生ブランドとして販路を広げる計画です。
・クライアントと織元さんに会う
依頼のきっかけは知人の紹介でした。もともと繊維に興味があったことと、文化を守ることに意義を感じて参加を決めました。プロジェクトメンバーは生地卸番匠の小林さんご夫妻、イワサキケイコキカクの岩崎恵子さん、Briséesの福井一朗さん、と私の5人。当然ながら私以外みなさん岡山の方で、主にメールやスカイプで打ち合わせしながら制作を進めています。このプロジェクトが始まって少し経った頃、やはり生で見なくては始まらないと現地を訪ねました。岩崎さんと落ち合い、小林さんご夫妻とお食事をして、織元さん2社を回りました。なにぶん予算が限られており交通費は当然自腹。半分旅行気分で行きましたが、みなさんの生活がかかっている、という重みを感じられたことが何よりの収穫となりました。どんなことでもですが、顔を合わせるって大事です。言葉以上のものを感じとってから考えたり作ったりすると、より喜んでもらえる結果が生まれる気がします。
<備後節織ロゴについて>
・備後節織は備後絣の一部と感じられるよう井の紋を生かす。
・備後節織の由来にもなった備後絣の特徴、ネップと呼ばれる節を絵的に表現。
・海外進出も視野に入れた日本感と英字表記を組み込むこと。
・藍染の生地が多いので色はDICの鉄紺に。
・名刺の印刷はバーコに。角にロゴで使った”節”を入れ、受け取った瞬間に指で節の凸凹を感じ取ってもらう狙い。
写真1:備後絣のロゴ復刻版、生地見本帳/備後節織のロゴ、生地見本帳、名刺、下げ札、ネーム、Webなどを制作。(クリックで拡大) |
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写真2:ロゴ検証の一部。(クリックで拡大) |
・備後節織を使用した製品作り
ネクストステップは製品をつくること。通気性の良い天然素材なので、直接肌に触れるものが良いのではと、寝具ブランド「g’morning g’night」を立ち上げることになりました。目指すのは、おはようとおやすみのまわりを満たすこと。私はロゴやWebサイトのディレクションの他、パジャマのデザインにも関わっています。第一弾は定番をということで、ポケットだけが異常に大きいユニセックスのシャツパジャマ。その頃半年ほど、会う人にひたすら「ねえどんなパジャマ着てる? どんなパジャマ欲しい? パジャマへの不満ある? パートナーにはどんなパジャマ着て欲しい?」と聞き続けたなかで、小さなストレスを解消することが、リラックスタイムの心の平穏につながると考えました。
大きなポケットは、物が入るだけじゃなく、下着を着けなくても気にならないこと、ズボンにインしてもダサく見えないこと、などのメリットがあります。同時に、生地が安価ではないけれどみんなに着てもらいたいので極力価格を下げようと、複雑なディテールを省くなど工賃を下げる工夫を生産管理担当の岩崎さんと検討していきました。いまは第一弾パジャマの仮サイトがあるのみですが、これから増えて本サイトに移行していくので、たまにのぞいてみてください。
<g’morning g’nightロゴについて>
・シンプル、ユニセックス、やさしい、普遍性。
・おしゃれにしたい、おしゃれすぎるのはだめ、というブランドの位置。
・2つのアポストロフィは太陽と月をイメージ。
・番匠さんもリニューアル
ここまで備後絣の話をしてきましたが、番匠さんのお取り扱いは備後絣だけではありません。まだまだ日本には紹介したい生地がたくさん…。番匠さんでは特に西日本の生地に特化して提案していくことに決め、
「生地の歴史や特性を伝える」
「業者でも個人でも生地が買える」
「その生地を使用した製品も買える」
という生地卸業界では新しい試みに挑戦しています。
そこでロゴとWebをリニューアルし、まだまだこのプロジェクトは続いていきます。
クライアント含め少人数で一緒に考えながら進めていくプロジェクトは、大企業の案件とはまた違った醍醐味があります。広告の仕事は(代理店系は特に)CD、AD、D、PL、CWとかなり分業化されています。今回のような案件では、ロゴもWebもパジャマもデザインするし、写真のディレクションもするし、ライターもする。個人はデザイナーと呼ばれがちですが、俯瞰で見れるクリエイティブディレクターであらねばならない場合が多いです。そしてここ数年感じていることは、編集長スキルの必要性。そのために、日々デザインに向き合いながらも、全方位にアンテナを張って、人間的な器も広げていきたいとしみじみ思っています。
次回は山田知子さんの予定です。
(2017年2月15日更新)
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