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Portfolio NOW!

このコラムでは、毎回1人のデザイナーに旬のデザインを見せていただき、その作品作りのきっかけ、コンセプト、世界観、制作テクニックなどを語っていただきます。リレーコラムですので、掲載クリエイターには次の方にバトンを渡していただきます。

 

Designer FILE 23

冨田一樹

冨田一樹(FICC):アートディレクター/デザイナー。1989年生まれ。大阪府出身。美術大学卒業後、2011年よりデジタルエージェンシー FICCに入社。ファッション・化粧品・飲食など様々な企業ブランドで、デジタルを軸としたメディアプロモーション・ブランディング施策のアートディレクション・デザインを手がける。
https://www.ficc.jp/
https://www.ficc.jp/blog/

●「Sir Thomas LIPTON ブランドサイト」:ブランドの体験をデザインする

紅茶ブランドであるLiptonが新プレミアムブランドを発表。

クライアントから新ブランドを日本・グローバルに向けて発信していきたいというブリーフィングを受け、ブランドの認知拡大に伴うデジタルプロモーション施策として、ブランドサイト構築とメディアプロモーションを行いました。

僕が担当したのはブランドサイトを中心とした全体のアートディレクション&デザインです。その中で特に大事にしたデザイン制作の考え方を5つ紹介します。


左:「Sir Thomas Lipton」ブランドサイト トップページ/右上:ブランドストーリー コンテンツ/スマートフォンビュー(時間帯によってメインビジュアルが変わる演出も)(クリックで拡大)

プロジェクトの目的を明確にする

クライアントからブリーフを受けた後、まず僕たちチームは、この商品がどのような商品であり、どのようなターゲットに対して、どのようなコミュニケーションをしなければならないかを整理しました。

今回のプロジェクトは、ユーザーに対して一番最初のコミュニケーションとなるため、ブランドのコンセプトである、創始者の波乱万丈な冒険に満ちた人生や、そこで生まれた由緒ある高品質なブランドであることをユーザーに体験し、理解してもらうこと。そしてブランドストーリーに共感してくれるユーザーを増やし、購買へつなげること。

それをこのプロジェクトが達成するべき目的に設定しました。

デザインの役割を明確にする

プロジェクトの目的が決まったら、次はデザインをどのように機能させるべきかを考えなくてはなりません。

「プロジェクトの目的を達成するために、デザインで何ができるのか」

「商品を買ってもらう」→「ブランドを好きになってもらう」→「ブランドに興味をもってもらう」→「ブランドを知ってもらう」、など、目的から逆算して達成しなければならない課題を洗い出し、デザインをどの段階でどう機能させることができるかを考えていきました。

デザインの役割はこの課題から課題へのステップアップのコントロールでもありますが、とりわけ商業のデザインにおいて、僕が一番重要だと考えていることは「ブランドを好きになってもらう」というところです。

そしてその「好きになってもらう」ということをまた掘り進めて行くと、「ブランドを好きになってもらう」→「ブランドを体験をしてもらう」→「体感してもらうには魅力的なコンテンツと、そのものらしさ(装飾・イメージ)が必要」となり、ブランド全体のそのものらしさ(イメージ)がちゃんと作れるかがデザイナーとして重要となってきます。

ここで造形のイメージがズレてしまったりクオリティが至らなかったりしてしまうと、一気に全体の体験が嘘っぽくなってしまい、悪くするとブランドとしての信頼さえ失うことにも繋がり、「好きになってもらう」という目的から遠のいてしまいます。ここでのイメージとクオリティをしっかり作れるかがデザイナーとして欠かすことのできない価値であり、大切な役割だと僕は思っています。

デザインのディテールに意味を持たせる

ブランドの体験を最大化するために、社内でイラストの描けるデザイナーを起用して、ブランドストーリーコンテンツを制作しました。また、製品情報をただ探しにいくだけのインフォメーションとしてのWEBサイトではなく、サイト全体でブランドの世界観を感じられるようにタイポグラフィや装飾、インターフェースやアニメーションを作り込んでいるのですが、それぞれの要素にも、そのものらしさを演出するために、ディティールに意味を持たせることにしています。

【歴史・物語感を演出するために】
・ストーリーコンテンツのイラストをペン画調で描く

【大航海・冒険感を演出するために】
・インターフェースやインタラクションのデザインを船に見立てる

【高品質感を演出するために】
・歴史や時代感など、使用用途に適した定番フォントを使う
・ベースカラーを黒・金にし、それに合う重厚な色調でまとめる
・余白を広めにとる
・エレメントのディティール、バランスを細部まで調整する


左:ブランドの創始者・サー トーマス リプトンのストーリーが体験できるコンテンツ/右:大航海・冒険感を体感させるインターフェース(クリックで拡大)

・デザインを活かすために、デザイン以外の言葉で説明する

デザインをクライアントやチームに説明する上で、デザイナーが持っておくべき大事な心構えがあります。それは、自分の中の世界だけで喋らず、相手の立場に立って、共通して理解できる言語にデザインを翻訳して伝えることです。よほどデザインやアートに理解がある相手でない限り、デザインのディティールやデザインへの思いをどれだけ話したところで、理解してもらうのは難しいと感じます。

クライアントに限らず、自分の所属するチームや会社においても同じで、そもそもの目的が共有できていなかったり、信頼関係を築けていなければ、どれだけいいデザインができたとしても、世の中に出すことは難しいです。僕も最初の頃は自分が作ったデザインをうまく相手に説明することができず、なかなか信頼してもらうことができませんでした。

幸い、僕の会社のチームでは、企画や施策自体の目的やKPIをまとめてくれるプロデューサーがいて、全体の構成を設計してくれるディレクターがいて、その人たちがいるおかげで、全体の構成や目的をはっきりと認識でき、様々な視点からデザインについて考えたり話すようになりました。

デザインは専門職であり、実際にカタチにする時には、高度な技術や知識、経験が必要になります。そして結局のところ、デザイナーには柔軟な発想力やアーティスト性も必要です。しかし、それが活かせるかどうかは、その環境、その状況に合わせた言葉でデザインを翻訳し、他者との信頼関係が築けているかどうかで変わってしまいます。

このプロジェクトでは、クライアントとの共通認識や信頼関係が早期に築けたことで、最初のラフデザインから大きくコンセプトがブレることなく、公開することができました。


左:最初の提案時に提出したラフデザイン。ロゴ含めほとんど素材のない状態から半日ほどで完成形のイメージに近い案を作成/右:ブランドストーリーの提案資料・ラフ。イラスト案とコラージュ案の2案を用意。イラスト案の方がより細かいストーリーを伝えられることからイラスト案を採用。(クリックで拡大)

・デザイナーの価値を再認識する

世の中にあるどんなプロジェクトも、最終的なアウトプットは余程のことがない限りデザイナーの手によって設計されます。デザイナーは、ただ形をデザインするだけではなく、どうすればそのプロジェクトが良くなるか、課題を解決できるのか、そして作り出したものがどのように機能して、どのような効果を生み出すのか考える必要があります。そしてアウトプットに対しての責任や経験、視点があるからこそ、そこからしか見えない考え方や判断基準が必ずあると思います。そういった視点は、今、どんな企業やブランドであれ必要とされているように感じています。

デザイナーとしての価値を再認識し、デザイナーとしてどういった価値を、社会や自分を取り巻く環境に提供できるか、説明できるか、認めてもらえるか。そういうことを考えながら行動していくことで、デザイナーが活躍できる場はもっともっと広げていけるのではないかと僕は思います。



次回は加藤圭織さんの予定です。
(2016年11月15日更新)

 

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