■35mm一眼デジタルと遜色ない使い心地の645D
645Dは初めて触ったときからまったく違和感なく利用できた。中判デジタルカメラだからと構える必要がまったくないカメラだ。AFスピードもそこそこ速く、超音波モーターの55mm新型レンズは静かに動作する。ペンタックスのデジタル一眼レフカメラを使っている人にはもっとすんなり使いこなせるだろう。液晶モニタも3インチと大きく見やすい。シャッターを切った直後はなかなかプレビュー表示されないのが気になるが、ピント確認のための拡大表示などストレスなく動作し気持ちがよい。ボディの大きさはやはり中判デジタルカメラで、重量もそれなりにある。
グリップ部が右側に大きく突き出ているデザインは、長時間持っていると手首が痛くなる。このあたりはボディに近い位置にグリップを持つH3DII-39の方がバランスは優れている。フィールドカメラとして特化しているなら、35mm一眼レフカメラ並みに極限まで小型化してほしかったところだ。
■フィールドに特化した645D、コマーシャル向きなH3DII-39
メーカー自身、「風景を撮るカメラ」と言い切っている645D。この言葉の意味はプロ向けサポートをせずハイアマチュア向けコンセプトと捉えることができる。少数のプロユーザーに対応するより、大多数のハイアマチュア向けにマーケティングされたコンシューマーカメラだ。この考え方は企業としてとても正しいと思う。
防塵防滴ボディはフィールドでとても扱いやすい。また、通常モードで最低ISO 200からというのも自然光で撮影するには正解だろう。ISO 400くらいまでであれば高感度ノイズなど気にせず撮影できる。H3DII-39はISO 50からスタートで上げてもISO 200くらいがノイズ的にも限界で、薄暗い自然光ではまったく撮影したくないカメラだ。このあたり、センサー設計の新しさでフィールドでは圧倒的に有利なツールだといえる。
しかし、大型ストロボを使いスタジオや日中シンクロを多用するファッション撮影ではこの評価は逆転する。ストロボで光を作る場合、感度の高さはまったくメリットにならず、逆に日中シンクロでは太陽光をとらえるために感度が低いほうがNDフィルターなど必要としないので都合がよい。また、ISO 50にセッティングされたレンジの広いセンサーに16ビットADコンバーターを備えているH3DII-39は、すべての階調をとらえてくれるような安心感があり、後のレタッチ耐性にもバンディングや色ずれを起こしにくい業務向きなデータを吐き出してくれる。もちろん645Dの画質も十分合格点な絵を作ってくれるが、H3DII-39はそこまでコマーシャル撮影に特化しているカメラだということだ。
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ペンタックス645Dによる撮影サンプル1
露出時間 : 1/60秒 レンズF値 : F14.0
ISO感度 : 200
(クリックで拡大。ファイル容量:約17.5MB)
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■コマーシャル撮影で使用した645D
今回はファッション撮影を前提に645Dを使用してみた。スタジオで大型ストロボを使いモデルを撮影。F16くらいまで絞り込み、できるだけシャープにモデルをとらえた。ローパスフィルターのない645DとH3DII-39は、35mm一眼デジタルでは表現できない解像感を得ることができる。ローパスの有無だけでなく、レンズ解像度に余裕のある中判レンズはいくら高価な35mm一眼レンズでも太刀打ちできない。この絞り込んだ時の解像感は中判デジタルの真骨頂だ。逆に言えば、開け気味の絞りでふわっとした写真を撮る場合には中判デジタルカメラの特性を生かせないとも言える。その場合、35mm一眼デジタルの方が明るいレンズがラインナップされていることもあり、絵的にも有利だし軽快に連写できる。中判デジタルカメラの特性をよく理解してから使いこなすことが重要で、使い方はやさしいが使いこなすには難しいカメラだ。
今回使用したレンズは55mmと、ファッションではかなり広角レンズの部類だ。パースが強すぎて被写体よりも誇張されたパースに目がいってしまうが、できるだけ気にならないアングルを探して撮影した。できれば100mm以上のレンズを使えればよかったが、今回は55mm1本だけの撮影となった。旧タイプのレンズでも問題ないとのことだが、コーティングだけでもリニューアルして発売してほしい。
等倍で写真を確認すると、H3DII-39と遜色ない解像力が確認できた。毛穴から産毛から見事に表現している。スキントーンの表現力などは35mm一眼デジタルとほぼ同等なのではという感想だ。画素ピッチが近いこともあり、ローパス以外はそのままセンサーを大きくしたカメラといえるかもしれない。また、 4,000万画素の等倍画像はF16まで絞ってもフォーカスポイントがはっきり分かるくらい前後がぼける。フォーカシングは大げさなほど慎重に行う必要があり、撮影者の技術が求められる。
■試作機では課題が残ったダスト処理
撮影したデータを後で確認すると、ゴミがいくつか写っていた。645Dにはホコリ除去機能の「DR II」(ダストリムーバルII)が搭載されているので安心しすぎていたが、やはりゴミが入り込んでくるのは避けられない。この場合、センサーをクリーニングしないといけないわけだが、ハッセルブラッドやフェーズワンのデジタルバックのようにセンサーが外れるわけではないのでクリーニングがとても大変だ。正直この構造だと自分で行うのはあきらめて撮影前にサービスセンターでクリーニングしたほうが安心できそうだ。ただし、たびたびサービスセンターに持ち込むのも面倒な作業なのでどうしたものかと考えてしまった。センサーを外してさっとクリーニングする手軽さは645Dにはない。
この件についてペンタックスにたずねてみたところ、今回使用した645Dはベータ版でホコリ除去機能「DR II」の性能が製品版と異なっていたことが判明した。「製品版はかなり良くなっている」とのことなので、大幅に改善していることを期待する。
■コマーシャルのワークフロー
絵のクオリティだけを見ると、値段が3倍以上もするハッセルブラッドと遜色ないカメラだということが分かったが、では何故メーカーがこのカメラを風景カメラとして特化させているのか疑問が出てくる。それには広告で使用するためのワークフローを知る必要がある。
ファッションや広告撮影ではPCにカメラを接続し、専用ソフトでPCのHDDに直接記録する。撮影した写真をすぐさまクライアントやアートディレクター、ヘアーメイクアーティストやスタイリストとチェックし、チームでクオリティを上げていく作業が一般的でとても重要だ。PC連結撮影(テザー撮影)をきちんとサポートしていない645Dには致命的な問題といえる。ハードとしては問題ないクオリティを持っているのに非常にもったいない仕様だ。メーカーの発表では今後そういったワークフローに対応していきたいとの声明があったが、ハッセルブラッドやフェーズワンの蓄積されたコマーシャル経験に追いつくのは大変だ。
フェーズワンのキャプチャーソフト「Capture One」はニコンやキヤノンの一眼デジタルでもテザー撮影できるようになっているが、Capture Oneが645Dに対応することはカメラ製品が競合するため今度ありえない話だ。同じ理由でハッセルブラッドのカメラもCapture Oneで撮影することはできないし、現像さえ対応していない。645Dの現像ソフトでテザー撮影はサポートされるが、キヤノンやニコンと同じくメーカー純正のソフトがコマーシャル向きな作りになった試しがないので期待は薄いといえる。唯一期待できるのはAdobe Photoshop LightRoomでのテザー撮影だろうか? ただし、純正ソフトがサポートしているレンズ収差補正等の現像機能は完璧には期待できない。せっかく良いハードがあるので、こういったワークフローを視野に入れた開発をペンタックスは考えてほしい。
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ペンタックス645Dによる撮影サンプル2
露出時間 : 1/60秒 レンズF値 : F16.0
ISO感度 : 200
(クリックで拡大。ファイル容量:約5.62MB)
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■テザー撮影風HDMIプレビュー撮影
645DにはHDMIでモニタ出力できる機能がある。これらは他社の中判デジタルカメラではなかった機能だ。テザー撮影の代わりに、HDMIケーブルで大画面モニタにてチェックしていく撮影スタイルもありなのではと思い実験してみた。今回は映像用で使用しているHDMIモニタを使用したが、PCモニタでチェックするとより大画面で確認することができる。
結果、ピントチェックや色温度変更など、チーム作業をこなすことができそうな雰囲気があった。ただ残念なのは、半押しにしたときにモニタがブランクしてしまう。液晶と同じ扱いなので仕方ないが、常時撮影画像をレビューできる機能をファームで対応できれば面白いかもしれない。また、PCへのデータ転送時間も必要としないのでPCレスで快適な撮影ができる。機会があれば仕事でチャレンジしても面白いかなと感じた。
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HDMIでモニタ出力しながらの撮影風景
(クリックで拡大)
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