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・デジタル一眼ユーザーのための中判カメラ徹底ガイド
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金田秀樹
スタジオエビスにてDigital Lab 創立、デジタルバックサポート開始。早川廣行氏とハイエンドデジタルカメラユーザーのためのユーザー自身によるWebサイト「電塾」を立ち上げ事務局担当。イメージスタジオ109にてDSLR動画サポートを始める。 |
ペンタックス645Dの発表やライカS2の発売により、中判デジタルカメラは新たな時代が始まった。これまでの中判デジタルカメラはバックタイプが主流で、非常に高価でありながら長所や短所についての情報が少なくトラブルも多かった。新たに発売された中判デジタルカメラは一体式でデジタルバック部分を外すことはできず、35mm一眼レフカメラと同じような感覚で使いこなすことができるようになった。そこで、35mm一眼レフカメラとの違いや使い分けについて、中判デジタルカメラの特徴を紹介していこう。
■中判デジタルを選ぶメリット
・レンズやイメージセンサーが大きいゆえの解像度の高さ
中判デジタルの魅力といえば、今なら4,000万画素クラスの解像度とRAWは16bitで、35mm判のデジタル一眼レフカメラのクオリティを上回るところだ。プロカメラマンの現場では中判デジタルのクオリティを、レタッチや合成の素材撮りとして使っている。たとえ最終的な印刷物が小さい扱いであっても、素材としてならば5,000万画素の中判デジタルで撮る。素材として使うならばできるだけ解像度は大きいほうがクオリティを維持できるし、16bitのデータは編集をしても破綻しにくいからだ。
アマチュアの場合であれば、4,000万画素から自由にトリミングができるところが魅力であろう。プロは撮影時にフレーミングを完全に決めて撮るが、アマチュアならば撮影後にトリミングをするという楽しみ方もある。その場合は2,000万画素よりも4,000万画素のほうが断然優位だ。
中判デジタルは、風景の写真撮影にも有効だ。自然界はトーンがたくさんあり、そこを撮るにはやっぱりRAWを16bitで記録できるカメラのほうがいい。ただし、いくら16bitといっても露出がオーバーだったら意味がない。使い方を間違えるとデータが大きいだけになるので注意しよう。
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▲一般的な35mm判のデジタル一眼レフカメラが採用する36×24mmセンサーのサイズの例(右)と、一般的な中判デジタルが採用する48×36mmのセンサーの例(左)(クリックで拡大) |
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▲一般的な35mm判のデジタル一眼レフカメラの2,100万画素と、中判デジタルの4,000万画素の比較 |
・ローパスフィルターを使わないシャープネスの良さ
中判デジタルの魅力は、シャープネスの良さにもある。ローパスフィルターはニコンやキヤノンなど一般のカメラには必ず搭載されているものだが、中判デジタルは搭載していない。フィルターなしで撮った風景は、遠くの枝葉などの細かいところなどがはっきりと映る。ただし、ローパスフィルターがなければモアレに悩まされるという欠点もある。今から6〜7年前に発売されていた1,600万画素や2,000万画素クラスのデジタルカメラバックは細かい柄の洋服を撮ると間違いなくパターンモアレが発生し、使いにくかった。
現在発売中の中判デジタルにもローパスフィルターを搭載しているモデルはなく、オプションでも販売されていない。だが、4,000万画素ほどの解像度があれば1つのピクセルが小さいのでモアレの発生が抑えられる。ベイヤ配列の素子を用いるので完全に防ぐことはできないけれども、緻密になっている分だけモアレは抑えられるはずだ。
・クライアントに対しての説得力
中判デジタルを使うということは、クライアントに対してのアピールにもつながる。フィルムの時代は、35mmもあればブローニー、4×5、8×10があり、「ギャランティーの高額な撮影は8×10で撮る」というふうに使い分けていた。カメラマンは大規模な広告の撮影であれば、アマチュアの手の届かないハッセルブラッドやジナーなどの4×5の機材を使うことで信頼を得ていた。現在の中判デジタルの位置づけは、解像度が高くて高価なことから一昔前の「8×10」と同じといえるだろう。
・ストロボとの相性のよさ
APSクラスや35mm判のデジタル一眼レフカメラは100パーセント、フォーカルプレーンシャッター式だが、今までの中判カメラはレンズシャッターかフォーカルプレーンシャッターのどちらかだった、しかし最新の中判デジタルカメラはボディにフォーカルプレーンシャッターを持ち、レンズにもレンズシャッター機構を内蔵したものを選ぶことが可能となった。
利点は1/4,000高速はフォーカルプレーン、1/500程度の日中シンクロにはレンズシャッターと2つのシャッターを自動で切り替えることができ、ストロボを使った日中シンクロ撮影で威力を発揮する。今後、マミヤやペンタックスも次々に高価だがレンズシャッター内蔵レンズをリリースしていく予定といわれるが、それはストロボ撮影の際に使いやすいからだ。
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◀フェーズワンやマミヤもレンズシャッターを内蔵した交換レンズを続々リリース予定だ(クリックで拡大) |
■中判デジタルを使う上で注意すること
中判デジタルは画質は優秀だが、使い勝手の面では35mm判のデジタル一眼レフカメラに劣る部分もある。
・AFフレームの少なさとピントのシビアさ
中判デジタルを初めて使う際に、おそらくもっとも戸惑うのは、AFの使い勝手だろう。例えば、キヤノンEOS-1D Mark IVではAFセンサーが45点と非常に充実しているが、中判デジタルカメラの主要なフォーカスエリアというと、マミヤやフェーズワンで3点、ハッセルブラッドで1点しかない。
また、35mm判のデジタル一眼レフカメラより焦点距離の長いレンズを使う中判カメラはピントの合う範囲が狭く、マニュアルフォーカスでピントを合わせることは非常に困難だ。それゆえ中判デジタルを使っているほとんどの人はAFしか使っていないだろう。
たとえばモデル撮影の現場では、アシスタントが撮った撮影データを即、モデルの目のところだけ拡大をして、「ピント合ってます。あ、今ズレました!」とその都度確認が行われている。そうしないとピントの精度が分からないのが現状だ。あまりのピントのシビアさに、レンズ、ボディ、デジタルバックとの個体差精度にも悩まされる場合もある。筆者のスタジオには、ハッセルブラッドHシステムのボディとそれに付くカメラバックが何種類かあるが、「このボディとこのバックはピントが合う」、「このボディとこれはピントが合わない」という相性が確認されている。
ハッセルブラッドに限らず、カメラバックという方式を採用している限り、ボディとのカメラバックの組み合わせによって前ピン、後ピンなどの個体差が発生するリスクがあり、最近発売された一体式中判デジタルカメラではこのような問題に悩まされることはないことを覚えておこう。
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◀合計45点のAFフレームを持つEOS–1Ds Mark IIIの例(左)とハッセルブラッドのAFフレームの例(右)(クリックで拡大) |
・三脚は必須
4,000万画素の撮影には三脚は絶対必須だ。中判カメラのミラーは35mm判より大きく、そのショックがどうしても残ってしまい、ブレが発生する。フィルムの場合は拡大率が4倍や8倍のルーペで確認するのでブレにほとんど気がつかないが、デジタルの場合は等倍で確認できるのでブレが顕著に分かる。
三脚だけでは足らず、さらにミラーアップしなけえばブレのない写真が撮れない状況もある。中判デジタルでクリアな絵を撮る条件として、まずは三脚が必須であることを覚えておこう。
・デジタル対応のレンズを使うこと
レンズはデジタルに対応した新設計のものを使うことだ。フィルム時代のレンズに対応していたとしても、お勧めできない。ペンタックスの場合は、古い設計のレンズの中には「使えないレンズがあります」と言っているほど。ペンタックスもマミヤもどんどんと新しいレンズにリニューアルしているのはそのためだ。
■35mmと中判デジタルの使い分けどころ
では、中判デジタルと35mmはどこで使い分ければいいのか。
ひとつは後処理を「するのか」「しないのか」で決まる。例えば、広告で使うタレントの撮影で後処理が必要ならば「今回は中判で撮ろう」、必要ないならば「35mmで撮ろう」と判断することが多い。ビューティー系の撮影などは、ローパスフィルターのない中判デジタルで撮影することが多い。肌の質感がなくなってぬるっとしてしまうと、後で処理のしようがないからだ。
逆に、後処理をしない場合は、35mm判のデジタル一眼レフカメラでも1,200万画素のきちんとしたデータならばA4見開きまで印刷できる。ノートリミングで露出が正確なデータであることが条件だが。2,100万画素や2,400万画素の一眼レフカメラであれば、なおさら問題ない。雑誌の撮影の場合はレタッチ代の経費も認めないという時代。だからプロの世界ではJPEGでの撮影が多くなってきている。
また、最近の撮影現場では、撮影に使える時間も減ってきている傾向がある。例えば、「社長のポートレートを15分で撮ってくれ」という場合はすぐにセッティングして、すぐに撮らなければいけない。こういった用途には、今の35mm判のデジタル一眼レフカメラは非常に多機能で高性能なので、対応しやすい。
一方、中判デジタルは技術でカバーしなければいけないカメラだ。しかし、そういう技術がある人は段々減ってきている。そういう意味では、中判デジタルは今、苦境に立たされていると思う。さらに、35mm判のデジタル一眼レフカメラのように買ってきたからすぐその性能を発揮できるということはない。ある程度使い込んでクセとか欠点だとかを覚えて、良さが出てくるというものだ。その特徴を良さと認めるか、面倒くさいとするかが、分かれ目となるだろう。
仕事と割り切って、ルーチンワークのように撮影するならば、35mm判のデジタル一眼レフカメラでテンポよく撮ってしまうほうが楽であろう。そうではなくて、手作りの料理みたいに、いい材料を揃えて手間や時間をかけて、いいものを作りたい。ということであれば中判デジタルだ。
中判デジタルは良さを見つけて使い方を間違えなければ、はるかに35mm判のデジタル一眼レフカメラよりいいデータが撮れる。苦労を苦労と思わない人にとって魅力を秘めている。自分できちんと手をかけていいデータを最終的に作り上げたい、という喜びを感じる人にお勧めできるカメラである。
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