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第1回:購入前に知っておきたい中判デジタルの基礎知識

解説::湯浅立志/フォトグラファー
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この連載では、広告や雑誌の第一線で活躍しているフォトグラファー、湯浅立志氏が、「中判デジタル」の世界の魅力をさまざまな視点から解説していきます。中判デジタルといっても、ハード面、ソフト面、撮影テクニック面など、語るべき内容は山ほどありますが、第1回目はまず、肝心要のボディとセンサーの話を中心に解説していきます。

●ブローニーフイルムカメラから生まれた中判デジタル

本サイトの創刊特別企画、「これが中判デジタルの世界だ!」をお読みいただき、少しだけでも中判デジタルカメラに興味を持っていただけたのではないかと思います。今回は、そんなあなたに基本的な中判デジタルの選択を解説していきたいと思います。

まず「中判デジタル」と呼ばれているものですが、ほとんど、元々はブローニーフィルムを使うために作られた中判カメラ、それに撮像素子であるデジタル部分(デジタルバック)を取り付けたカメラのことを指しています。

元々が中判カメラだと言っても、中判カメラにもいろいろあります。セミ版と呼ばれる645(6センチ×4.5センチ)から、ハッセルに代表されるロクロク(6センチ×6センチ)、マミヤやアサペンのロクナナ(6センチ×7センチ)、プロカメラマンや営業写真館で多く使われていたフジのGX680(6センチ×8センチ)、さらには6×9、6×12など、6センチ幅のブローニーフィルムをどの長さで切るか? によって、多様なフォーマットの中判カメラが生まれてきました。

中判デジタルは大型のセンサーとはいえ、ブローニーフィルムをすべてカバーするほどの大型のセンサーは作れません。また、その撮像素子は面積が大きくなればなるほど、作るのに大変な金額が掛かるようになっていきます。今、ニコンのD600など35フルサイズのカメラが安く発売されてきてますが、ちょっと前までは35フルサイズのカメラは30万円以上はしたものです。

同様に、中判デジタルのデジタルバックも面積が大きくなればなるほど、金額は高くなります。現在、中判デジタルと呼ばれているデジタルバックのほとんどはフィルムサイズで645と呼ばれていたサイズよりも小さいセンサーを使っています。それでも35フルサイズの倍くらいの大きさなので、前回に解説したように、その解像感、ダイナミックレンジは中判デジタルならではという画像になるのです。

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▲10年ほど前までプロカメラマンやハイアマチュアに広く使われていたブローニーフイルム(クリックで拡大)

●資産を生かすか、デジタルで一新するか

さて、もしあなたが中判デジタルに興味を持たれて、それでは買ってみよう、となったとき、いくつかの選択肢があります。
(1):すでにフィルム時代の中判カメラを持っていて、そのカメラにデジタルバックを付ける。
(2):いちから中判デジタルのシステムを揃える。
この2つの選択肢から選ぶことになります。まず(1)のケースから説明いたしましょう。

すでにお持ちの中判カメラにデジタルバックを取り付けるという要望は、中判デジタルではかなり大きい比率を占めます。せっかく揃えた中判カメラです。フィルムの代わりにデジタルバックを付けるだけで、中判デジタルになるのなら、掛ける金額も抑えられます。僕も最初に買ったPhase Oneのデジタルバックは、ハッセルブラッドのボディに付けて撮影していました。

手持ちの中判カメラにデジタルバックを付ける場合、市販されていたすべての中判カメラに取り付けられるわけではありません。デジタルバックメーカーがフィルムホルダーのマウントに合ったデジタルバックを発売していないものは、付けられません。おおむね、一般的だったフィルムホルダー交換式の中判カメラには対応しています。対応していないのはアサヒペンタックス67や、アサヒペンタックス645のようにフィルムホルダーが一体となっているカメラです。特別な例として、PENTAX645Dがありますので、645のレンズを揃えていたフォトグラファーの方は、そちらを選択することが多いようです。

中判デジタルのマウントには以下の種類があります。

マウント カメラ
V ハッセルブラッド500シリーズやSWCに採用されているマウント。もっとも普及しているので、このマウントを介して大型カメラにも取り付けることが可能。
H ハッセルブラッドHシリーズのマウント。FUJIFILM GX645AFも含む。H1,H2に他社のデジタルバックを取り付けることは可能だが、H3以降のモデルには他社製のデジタルバックは動作しないが互換性のあるモデルとしてH4Xが発売。フジGX680シリーズにもこのマウントを介して取り付ける。
M マミヤ645シリーズのマウント。PHASE ONE 645DF, 645AF、Mamiya645DF, 645AFDIII, 645AFDII, 645AFD。マミヤRZ67にもこのマウントを介して取り付ける。
C Contax 645のマウント。Contax 645のみ使用可能。


補足説明をしていきましょう。

Vマウントは現在、最も数としては普及しているマウントになります。 ただ、ハッセルブラッドの500シリーズはすでに生産中止モデルです。新しいレンズも出ないでしょう。中判デジタルは先に書いたように、645サイズよりも小さい撮像素子を使っていることから、6×6のフォーマットでのレンズでは、広角側が厳しくなります。風景など広角レンズで撮りたい場合、Vマウントの中判デジタルでは撮れない可能性が出てくるでしょう。また、カメラ、レンズなど修理をしながら現在あるものを使っていくことになります。先行きが不安ですが、ハッセルブラッドは修理業者がいくつもあるので、すぐに使えなくなることはないでしょう。

Hマウントは、ハッセルブラッドHシリーズのマウントですが、ハッセルブラッドはHのカメラにはHのデジタルバックしか使えないようになっています。初期のH1、H2は使える機種もあるのですが、それ以降のモデルはすべてハッセルブラッドのデジタルバックのみ使用可能です。例外としてH4xがPhase One、Leaf(一部未対応)のデジタルバックと互換性があります。

Mマウントはマミヤ645のマウントだったのですが、Phase One社にマミヤが統合されたことにより、デジタル専用の中判カメラを開発しています。ボディと同じように新しいレンズも発売していますので、今後、将来を考えると、最も安定して使えるシステムといえます。

CマウントはContax 645のマウントですが、すでにこのカメラも生産中止モデルです。ファッション系のプロカメラマンで多く使われていたカメラなので、今でもContax 645にデジタルバックを取り付けて撮影しているプロカメラマンは多いです。ですが、新しいレンズは今後出てくることはないと思われるので、手持ちの機材で十分というフォトグラファーでないとお薦めできません。

デジタルバックのマウントですが、取り替えはできません。購入後、カメラを換えたいときは、下取りなどで交換ということになります。

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▲左がハッセルブラッドVマウント(503CW)。右がマミヤMマウント(Phase One 645AF)。フィルム時代のカメラとデジタル対応のカメラではマウント部に信号を伝える電極があるかないかが違う(クリックで拡大)

●中判デジタルにはセンサー一体型カメラもある

次に(2)のケースです。
新たに中判デジタルを揃えていく際の選択肢は以下です。

Phase One 645DF, 645DF+, 645AF デジタルバックはPhase OneとLeaf、ジナーから選択
マミヤ 645DF, 645DF+, 645AFDIII, 645AFDII, 645AFD デジタルバックはPhase OneとLeaf、ジナーから選択
PENTAX 645D   デジタル部分は1種類のみ
ハッセルブラッドH H5D 画素数によって選択。またマルチショットモデルあり
ライカS S2 デジタル部分は1種類のみ


マミヤとPhase Oneですが、ブランドが違うだけで、同じカメラといってもよいでしょう。この645シリーズは、オープンプラットフォームといって、仕様を公開し、デジタルバックに互換性を持たせているカメラです。将来的に他のデジタルバックにしたくなっても、バック部分を換えることによって、レンズなど、他のシステムはそのまま流用できるので、最も安心できるといえます。

PENTAX645Dは、ボディ一体型の一眼レフです。バック部分を外すことはできないので、将来的にもっと高画素のモデルが出たときは、ボディごとの変更になります。

ハッセルブラッドHシリーズはマルチショットモデルのような少し特殊なモデルを出している点が特徴です。デジタルバック部分は外して使用することも可能です。
ライカSシリーズはデジタル一眼カメラのような形状をした中判カメラです。これもボディ一体型の一眼レフです。他社の中判デジタルよりも若干小型のセンサーを使っています。

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▲最新の中判デジタルカメラ「PhaseOne645DF+」 (クリックで拡大)

●デジタルバックはサイズやシャッタースピードで選ぶ

機種が決まったら、次の選択肢はデジタルバックの選択になります。

ただ、ここから先の選択は、PENTAX645DとライカSシリーズを選んだ人にはできません。先に書いたように、これらのカメラは一体型でデジタル部分は本体に内蔵されているからです。

デジタル部分を選択できるメーカーで、話を進めていきましょう。最初に書いたように、撮像素子はその面積によって金額がかなり変わってきます。35タイプのデジタルカメラでも同じですが、35にフルサイズとAPS-Cがあるように中判デジタルにも大別すると3つのラインがあります。フォーマットは4:3です。

43.9×32.9mm Aptus-II 8、Leaf Credo 40、IQ140、H5D-40
49.1 x 36.8 mm Aptus-II 7、P 45+、H5D-50
53.9 x 40.4 mm Leaf Credo 80、60、IQ180、160、H5D-60

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▲デジタルバック(P30)を取り付けた状態の645DF (クリックで拡大)


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▲各センサーの面積比較(クリックで拡大)


これ以外にLeafでAptus-II 10, 10R 、12、12Rというフォーマット2:3のモデルもあります。

現在3つのラインですが、今後は小さめの43.9×32.9mmと、大きめの53.9 x 40.4 mmの2つのラインに集約されてくると思われます。

小さめの43.9×32.9mmは通称4433と呼ばれてますが、ポートレート、ファッション系の撮影などに適しています。フレームレートと言って、コマスピードのことですが、秒1.1〜1.2コマ程度のスピードで連写ができます。撮像素子の面積も小さいので、同じレンズを使っても少し長めの望遠レンズになるので、これもポートレートには使いやすいのです。反面、風景、インテリアなど、広角が必須の場所ではより広角レンズを用意しないとなりません。画素数も4,000万画素程度なので、カット数が多くなっても比較的ハンドリングしやすいのが特徴です。金額も抑えられています。

大きめの53.9 x 40.4 mmのセンサーですが、デジタルバックが高画素になっていく時代背景で出てきたモデルです。このサイズのデジタルバックはどこのメーカーでもフラッグシップのモデルになります。画素数は6,000万画素、8,000万画素と、現在の最高レベルの画像を撮影できます。撮像素子の面積も大きいので、広角側の撮影が多いシーンに向いています。画質も最高ですが、金額的にもかなり高額なデジタルバックです。

この3つのラインからの選択になりますが、もう1つ重要な選択肢があります。それは対応しているシャッター速度です。中判デジタルは35デジタルとは違い、長時間露光が苦手です。そのデジタルバックによって、対応できる長時間露光が違います。

Leaf AFi-Ⅱ-10、Leaf Credo 60、IQ160、140、P65+ 60秒まで
Leaf Credo 80、Leaf Credo 80 120秒まで
P 45+ 1時間まで

夜景の撮影など、どうしても数十分の露光が必要なシーンがあります。もし、そのような写真が撮りたいのなら、選択肢はPhase One P45+しかありません。このデジタルバックは旧コダック製のセンサーを使っている唯一のモデルです。今でも非常にファンが多いのも、そのあたりに由来するのでしょう。

 

●最初はリファービッシュモデルを選ぶ手もある

さて、もう一つ現実的な選択肢としての要素があります。それは投資金額です。

中判デジタルは良い、それはよく分かっていても、とてもじゃないけど買えない…という人も多いでしょう。発売時期によっては値下がりしますが、それにしても、100万円以上の商品です。なかなか購入に踏み切れないでしょう。

その最初の投資金額を抑える方法があります。中判デジタルメーカーが不定期に発売するリファービッシュモデルです。これは整備品と言って、下取りしたデジタルバックをメーカーで再整備して、新品同様にして発売するというものです。新品ではないので、製品保証が1年間ですが、初期投資を安く抑えるには良い方法でしょう。僕も最初に買ったPhase Oneはリファービッシュモデルでした。

リファービッシュモデルの注意点としては、定期的に生産しているわけではないので、新品購入者が下取り交換したものが出てくるので、常に在庫があるわけではないと言うことです。欲しいときは販売店などに頼んでおくとよいでしょう。

今回は最初のデジタルバックの選定について書きました。

中判デジタルの世界に入るに当たって、実はこの最初の選択が最も重要です。何度も書くようですが、デジタルバックは高額なので、そうそう買い換えるのは困難です。買ってみて、「こんなはずではなかった・・」と後悔することはできるだけ避けたいものです。

この連載ではメーカーからの情報だけでは得られない、実際のユーザーとしての視点で、良い点も悪い点も隠さずに出していくことを目標としています。その上で、自分に合った中判デジタルを選んでいただき、中判デジタルで広がる素晴らしい写真ライフを楽しんでいってほしいと思っています。




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