●レンズの味を楽しむのも中判カメラの醍醐味
「写真を撮るためのレンズの良さ」は解像力やMTF曲線などの数値だけでは語れないことは皆さんもご存じのはずです。また、設計思想の違いもあります。どちらかというと35mm用のレンズは解像感重視。中判以上のレンズは階調感を重視して設計されます。この2つはトレードオフの関係にあるようで、両者のバランスをいかに取るかが成功のカギのようです。中判レンズの場合は解像力は十分な画素数を持つイメージセンサに任せて、コントラストと階調感を重視できるのが最大の強みでしょう。
筆者はこれまで、カメラ用レンズは周辺まで明るさも解像感も変わらず、歪曲収差も色収差もないレンズが高性能だと信じていました。しかし描写力は、それだけではなさそうです。細い線の描写が得意だったり、空間を感じさせる立体感が強い、ピントが合っているところと合っていないところの差が大きいため発生する立体感…ピントの芯にややフレアがかかることで軟らかい表現になる…ただ、解像感が高く、周辺まで均一で絞りを空けても絞っても劣化の少ないレンズとはひと味違う“レンズの味"を楽しむのも中判カメラの醍醐味の1つといえるでしょう(商品撮影とは異なる分野なのですね)。
立体感が強調されるレンズや、開放近くの時はピーキーなピントを持値線が太い印象ですが、ちょっと絞ると全体の解像感が増し、線が細くなる印象を受けるレンズもあるようです。最近は減りましたが、こういう絞り値によって性格が変化するレンズを使うときは、あくまで開放F4程度に固執したりもします。もちろん F32以上絞ると今度は回析現象のせいでレスポンスが悪くなってしまうのです。かといってパンフォーカスにしたければ回析現象に目をつぶってもF32まで絞ることだってあります。絞りの使い方は単にイメージセンサーに送る光の量をコントロールするだけでなく、被写界深度や明るさや“ボケ”の変化はもちろん、レンズの描写力や性格を変化させて絞り値を決めるという使い方があるのですね。
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