●風景写真をどこまで詳細に写せるか!
これはあくまで写真を撮り始めたころの「題材」が風景写真であった私の好みなのですが、「中判デジタカメラが最大の魅力を発揮するのは風景写真だ」というお話しです。
もちろん、「画素数が大きいため大きな出力に対応できる」という特性は、さまざまな局面で魅力として語られるべきで、風景写真に限ったことではありません。ではなぜ風景写真でその魅力が発揮されるかというと、風景写真こそ「空間周波数が非常に高く」特に「広角」側であれば何の変哲もない写真であっても高い空間周波数を有していることが多いのです。通常A3程度にプリントする場合では2,400万画素と5,000万画素の解像感の差はあまり感じないといわれています。
これを数値で見てみると 2,400万画素のデータをA3にプリントする場合に得られる解像度は360dpiに対して 5,000万画素のデータの場合は494dpiにもなります。ところがインクジェットプリントで200dpiを超えたところでは、ちょっとした見た目ではほんとど差を感じることができません。そのため2,400万画素も5,000万画素も「細かい形が実際に記録されている」ことによる立体感は異なるように感じはしますが「大きな差は感じない」ということになります。
しかし、A1、A0などの大判に印刷したときには明らかに解像感、立体感ともに雲泥の差が出てくるのです。A0サイズにプリントする場合、5,000万画素という画素数を持っていても目伸ばしなしで得られる解像度が170dpiそこそことなります。インクジェットプリンタの場合は実は近くから見るシーンでも十分にプリント可能な限界値と考えて良いでしょう。ただし2,400万画素となると125dpi程度まで密度が落ちてしまいます。125dpiということは、1ミリの中に約5個のドットが並んでいることになるのです。観察距離に2メートル以上確保できればそれほど問題ありませんが、30センチの近さで見られたときには「ドットの荒さ」が見えてくるでしょう。特に目の良い方にははっきり見えるようです(現実には1ドットをプリンタがさらに分解してインクを乗せるのでさらに細かい点の集合になっています)。
空間周波数が高い、低いというのは被写体固有のものだけではなく、画像を捕らえるイメージセンサーに対して相対的に変化します。ちょっと理解しにくいかもしれませんので分かりやすい被写体を使って、まず含有される高周波成分の量を確認してみましょう。
この2枚の作例は約5,000万画素のデジタルバックで撮影しました。メインになる被写体は九段会館の煉瓦の壁です。撮影しているポイントは武道館に向かう田安門の取っつきで被写体までの距離160メートルほど、片方が120mmの中望遠の広角、もう一方が50mmの広角で、それぞれ35mmに換算すると87mm、37mm相当になります。当然ですが、広角レンズの方が同じ面積の画面内により広い範囲を取り込みますので、建物も桜も草花も小さく写ります。こうやって微細な形になり、 数 pixelに近いサイズになったものが高周波成分で、「空間周波数が高くなった」と見ることができるのです。
およそ同じような場所を100%に拡大表示してみました。120mm側はフェンスの形や、右側の煉瓦の壁の煉瓦の形も解像しようとしていますが、50mmで撮影したものはフェンスは解像していませんし、煉瓦の壁に至っては色モアレを発生させています。もっとも、この色モアレは簡単に解消できますので安心してください。色モアレの除去の方法は後述します。
120ミリレンズで撮影された画像は、この煉瓦の部分やフェンスの部分が「解像可能な限界値の高周波成分」であり、50mmレンズを使った画像ではフェンスの太い線や壁の境目あたりがそれにあたると考えてよいでしょう。同じものなのに選択したレンズによって空間周波数が変化しているのです。もちろん広角レンズで撮影された方が高周波成分が多くなっています。
さらに1ピクセルが見えるように800%まで拡大してみました。120mmの方は煉瓦の形に4ピクセル、煉瓦の継ぎ目やフェンスの針金に2ピクセルは当てられているのが分かるでしょう。しかし、50mmレンズの方はフェンスの太い部分でやっと3ピクセルです。この部分は解像しますが、それ以下の1ピクセル以下で解像することはできませんので、フェンスの細いラインは解像しきれていません。
そうです。風景写真の場合は、このように拡大したければどこまでも拡大可能な「自然界に存在するより微細な形」が存在しているのです。もしあなたが砂漠の風景を撮影していたとき、近景にある砂の一粒一粒が解像していたとしたらどのような感動を覚えるでしょう?
5,000万画素となると、この作例の全体像からは想像もできないくらいの解像感をもたらします。このクラスのカメラであれば、ほとんどのシーンで「解像不足」という事態は起こらないでしょう(A0サイズ以上に大きくしたときには直近30センチの距離で仕上がりを見る人などいないはずなので…2メートルは下がらないと全体像が見えないはずです)。
つまり「A0プリントを含めて 一般的にはどのような要求にも応えることができる」データを収得可能なのです。この時点でかつての8×10という大判フィルムを使用した写真の解像感をはるかに抜き去っています。筆者の感覚では11×12でさえ、5,000万画素のデジタルバックに敵わないのではないかと感じています。
実はそこには当時は思いもよらなかった「レンズの解像力」「当時のレンズに合わせたフィルムの解像力」という問題が含まれているのです。かつての銀塩写真用に設計されたレンズは「フィルムがここまで解像できるはずがないので、現状以上解像しても意味はない」時代が長く続いていたのです。そして35mmフィルムは、解像感が高く設計されていましたが、ブローニー、4×5、8×10などのシートフィルムとサイズが大きくなるにしたがってフィルムの解像度は逆にどんどん下がっていったのです。「フィルムサイズが大きいのだから、解像度はそんなに必要ないよね」という考え方だったのでしょう。レンズの話も近いうちに予定しています。お楽しみに…。(2013年4月)
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