●「見た目」と「実際に撮影された色彩」は違う?
今回は「近赤外線カットフィルター」について。中版、小型に関わらず、ほとんどのデジタルカメラには、イメージセンサー前面にRGBのカラーフィルターだけでなく、イメージセンサーにとって有害な近赤外線をカットするためのホットミラーが搭載されています。これは「見た目」と「実際に撮影された色彩」を近づけるために用意されているものです。
黒いはずのスーツが赤く写ったり、モスグリーンが茶色になってしまう現象は被写体が近赤外線を多く反射する染料などを含んでいるときにデジタルカメラで撮影すると、色が異なって撮影されるという現象として知られ、分光反射特性(メタメリズムともいわれている)によるものとされています。この現象は銀塩フィルムでも生じていましたが、デジタルカメラでその傾向が顕著になりました。
銀塩フィルムは近紫外線方向に感度を持ち、イメージセンサーは近赤外線方向に感度を持っているのがその原因です。デジタルカメラの受光部であるイメージセンサーは人間の目には見えない(可視光領域外にある)近赤外線を感じて、色彩を赤茶方向に転ばせます。電球の下と蛍光との下とで色が違って見える現象もこの一種です。この現象、別に何が悪さをしているわけではなく、「人間の目では関知できない近赤外線域に起こった現象をデジタルカメラは正確に捉えている」と思ってよいでしょう。ただ、そのままでは「見た目」と「写った色彩」が異なることになり、困ったことなのです。
色彩が変化するだけでなく、近赤外部分が追加されるためにイメージセンサーが受ける光の量も多くなり、シャドー部が持ち上がりコントラストが弱くなります。さらに、光源によりその影響が始まる波長が変化したり、異なる動きを見せる場合もあるため、ある波長からカットしてしまうだけでは除去しきれないし、下手をすれば正常な色を転ばせてしまいます(この近赤外線を利用して人肌を検知しているメーカーもあるので一概にはいえません)。近赤外線カットフィルターはこの現象を抑えるために装着されたフィルターです。
▲人間の目には見えない近赤外線は光源によってその発生が異なる。700ナノメートル以上の近赤外域は ストロボの場合は波を打っているし、タングステン光は大きく盛り上がっている。そのため、簡単にカットしてしまえばいいというものではない。コンシューマー系のデジタルカメラには単純なカットフィルターが装着されているが、高級なフィルターになると、なだらかにカットするものと裁ち落とすタイプの2種類の蒸着がされているようだ。
次回は風景などの「解像感」を要求する被写体についてお話をしたいと思います。(2013年3月)
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