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第5回:イメージセンサーと解像感の関係

鹿野宏/カメラマン http://www.hellolab.com
電塾 http://www.denjuku.org/

ここでは、中判デジタルカメラの入門者向けの記事として、中判デジタルカメラとは何か? デジタル一眼などと比較してどこが優れているのか? などをセンサー、レンズなど具体的な項目ごとに解説していく。今回はイメージセンサーに関して、より詳細に説明していこう。

●フィルムとイメージセンサーの違い

銀塩フィルムの場合は、ピントの合う範囲がファジーでした。それは「粒子」が存在するフィルムの厚さの中であれば、その中のどこで反応しても合焦したことになるからです。これがデジタルカメラとなると、イメージセンサーのきわめて正確に作られた平坦な面で合焦するため、ピントは非常にシビアになり、合焦ポイントは本当に1点しかなくなってしまうのです。そのため、デジタルカメラでは、人間の目だけでは合焦を確認できなくなりつつあります。

ピントの話はまた別の機会にゆずるとして、今回は写真の解像感とイメージセンサーの関係を考えます。解像感を語る際に忘れてはならないことがあります。銀塩フィルムは粒子の大きさに大、中、小の差があり、しかもそれは不定形です。そのため、細かい形でも小さな粒子が反応すれば「うまく記録する」ことができ、解像感はいきなり低下することはありません。解像感は徐々に低下していくのです。

ところがデジタルの場合、受光素子はすべてまったく同じ大きさ、形のイメージセンサーが並んでいます。そのため、センサーピッチの2倍程度のサイズ以下の細かい形はすべて解像不可能になるのです。つまり「あるサイズ」を越した瞬間に、いきなり解像不能になってしまうのがデジタルフォトなのです。

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▲銀塩フィルムの受光素子のイメージ

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▲デジタルカメラの受光素子のイメージ

●ピクセルピッチと解像度

イメージセンサー上に画像が結像され、記録される時、どのように記録されるのか頭では理解していても、具体的に考えたことはあるでしょうか? かなり乱暴な方法ですが、実際に同じセンサーサイズ上でピクセルピッチを1/2 、1/4に変更したモデルで検証してみます。自然界にはイメージセンサーとまったく同期したまっすぐな線というものは存在しません。すべてが角度を持ち、また曲線で構成されているのですが、ここでは検証しやすいように直線でモデルを作りました。

細かい質感やテクスチャーを再現したければ、それだけピクセルピッチの細かいデジタルカメラを選択し、自分が記録したい一番細かい形を形成するピクセルが3〜4ピクセルは当たるように撮影すれば、思い通りの解像感を得られるということに気付くはずです。顔のアップが必要なら被写体に寄り、イメージセンサー固有の空間内の周波数を大きくしてやれば、600万画素機で撮影しても大伸ばしに耐えることが可能になります。

かつてのデジカメの作例にアップが多用されたのはその所為かもしれません。逆に広い風景の中の木々の葉っぱの質感やテクスチャーまでを記録したければ、画素数を上げるべきなのです。これらは画像を800%くらいでピクセルが見えるような状態でデータを観察すると、目視で確認できます。使用しているデジタルカメラの画素ピッチがたとえば6.3μmだとすると、イメージセンサー上に結像した被写体のもっとも細かい線が20μm以上あればその線は確実に形のある情報として捉えられたということになります。(2013年2月)

※1μmは0.001mm。ミクロンと呼ばずにマイクロメートルと呼ばれている。

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この格子の1つひとつが1ピクセルだと仮定する。そこに上図のように1ピクセルよりも細い線と1ピクセルよりもやや太い線、約2ピクセル、約4ピクセルの線と角度を持った線が投影されたとする。垂直な線は直線上に小さなでこぼこ…つまりテクスチャーを持っている。
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この格子の1つひとつが1ピクセルだと仮定する。そこに上図のように1ピクセルよりも細い線と1ピクセルよりもやや太い線、約2ピクセル、約4ピクセルの線と角度を持った線が投影されたとする。垂直な線は直線上に小さなでこぼこ…つまりテクスチャーを持っている。

センサー上に結像した光は実際にはこのように記録される。
(1)1ピクセルよりも細い線は運良く1ピクセルに収まった場合、それ自身よりも細い形を記録できないので、元の線よりも太った1ピクセル分として記録される。ただし、元の線が真っ黒でも余白との平均値で描かれるのでグレーの線となる。

(2)通常はこれが一番多いのだが、2ピクセルにまたがって存在した場合はもともとが1ピクセルよりも細い線であっても2ピクセルの太さで記録され、これもまた1ピクセル中に存在する線分の濃度に応じてより薄い線として記録されてしまう。

(3)1ピクセルよりも太い線だったときに、初めて真っ黒な部分が記録されるが、それも完全に1ピクセル内に収まっている部分だけで周辺は淡いグレーになる。

(4)やや太い線だった時に、やっと周辺部も濃くなるが真っ黒にはならない。この線の太さの違いは周辺の濃さとしてしか記録されない。

(5)4ピクセルあると、3ピクセル分は真っ黒になり、もっとも端のピクセルが淡いグレーになるだけですむ。ここまできて、やっと線の端が丸いかもしれない、という気がしてくる。ただし線にあるテクスチャーはまったく再現されない。

(6)緩やかな角度を持った細い直線はまっすぐな直線が徐々に1ピクセルずつ移動していくように記録される。この現象は建築などを撮影している時によく見かけるので経験している場合もあるだろう。

(7)さらに角度がつくと階段状に記録される。まさしくドット絵となる。

(8)その線がさらに細くなると途中が切れて見えてしまうこともある。

もちろん現実の世界に直線はなく、曲線と曲線の集合体なので、これが曲がるとなるとさらに線分はぶつ切り状態で記録される。

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▲今度はピクセルピッチを1/2にしてみた。先ほどよりは「左上の図にある大元の線分らしい」記録のされ方になっているのがよく分かる。緩い角度の線はやや階段状だが細い線もつながり出している。空間周波数という見方でみると最初から太い、しっかりした線は低周波成分。1ピクセル前後に当たる線が高周波成分ということになる。同じ被写体を撮影してもピクセルピッチが異なれば、高周波成分にも、低周波成分にも成り得るし、同じ被写体、同じデジタルカメラカメラで撮影していても、寄って撮れば低周波、引いて撮れば高周波成分として扱われる。

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▲さらにピクセルピッチを1/4にしてみた。ここまでくると太い線の中のテクスチャーらしいものも記録され出す。細い斜めの線も、やや太ってはいるものの、それらしい再現で描かれていることに気付くだろう。

 


Column-01 解像感のイメージ

photo解像感をイメージ的なグラフにしてみた。緑の線で示された銀塩フィルムは記録するサイズが精細になるにしたがって緩やかに解像感を失っていくが、デジタルカメラはある1点で解像しなくなる。600万画素程度の画素密度が低いものは解像感で銀塩に劣るが、1,200万画素程度からかなり肉薄し、さらに3,000万画素を超えると、銀塩が持っていた最大の解像感を遙かに超えてしまう。
「低周波成分が多い画像の場合はデジタルカメラが勝っても、高周波成分が多い画像では銀塩フィルムに劣る場合もある」というのがセンサーサイズが小さいカメラの常識だったが、3,000万画素を超えた段階で完全にフィルムの解像感を追い抜いているといってよい。



Column-02 空間周波数について

photoこれも雑学だが…空間周波数について少々。画像における明暗の繰り返しの細かさを正弦波に例えると振幅と周期に分けて考えることができ、ある空間の中で振幅が緩やかであるならば、それは低周波で、振幅が細かければ高周波成分ということになる。平易にいうと細かい形が多いところの空間周波数は高い。はっきりくっきりした形が多く、太い形は空間周波数が低いと考えてよいだろう。デジタルカメラは画素密度を上げることによって高周波成分に対するレスポンスを上げることができるが、センサーサイズが小さい場合は階調感や増加するノイズとの戦いでもあり、センサーサイズが一定の場合、画素数と階調感は常にトレードオフの関係となる。この問題を解決するのが大きなセンサーサイズということになる。


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