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第4回:イメージセンサーの仕組みと現状

鹿野宏/カメラマン http://www.hellolab.com
電塾 http://www.denjuku.org/

ここでは、中判デジタルカメラの入門者向けの記事として、中判デジタルカメラとは何か? デジタル一眼などと比較してどこが優れているのか? などをセンサー、レンズなど具体的な項目ごとに解説していく。今回はデジタルカメラの心臓部であり、フィルムの代わりとなる役割を持つイメージセンサーについて解説していく。

●イメージセンサーの役割

今回からはイメージセンサーについて考えてみたいと思います。まず、デジタルカメラの能力を測るモノサシとして、以下の項目が挙げてみます。

1.デジタルカメラの情報の要素は精細さを定義する画素数
2.明暗情報の細かさ(滑らかなグラデーション)を定義する階調数

さらに挙げると、
3.色の変化を定義する色相分離能力
4.ハイライトやシャドウをどこまで捕らえることができるかというダイナミックレンジ
5.暗い場所でも撮影できる高感度特性

そして連射の能力、転送スピード、インターフェイスなどが上記の項目に付随してくるのでしょう。

1から5までを実現するためにさまざまな「演算」を行い、画像を仕上げているわけですが、その大元のデータを取り込む役目をしているのがイメージセンサーです。

中判デジタルバックのデジタルカメラと、35mmタイプデジタルカメラの最大の相違点は、そのセンサーサイズにあります。一眼レフタイプは APS-C あるいは35mmフルサイズです(今はもっと小さいイメージセンサを持つ一眼レフタイプも存在しますが、ここでは触れません)。10年以上前に、400万〜600万画素時代のカメラバックタイプが搭載していたのが35mm一眼レフと同じサイズのイメージセンサーです。

現在の中判デジタルバックのイメージセンサーは、ほとんどが6×4.5と同じかそれに近いサイズになっており、総面積で35mmの2〜4倍近い差があります。画素数では3,000万画素オーバーで、最大は8,000万画素まで存在します。一方、35mmタイプ一眼レフにも最大で3,600万画素のニコンD800(2013年1月時点で唯一)がありますが、中判タイプデジタルカメラの画素数の下限がちょうどそのくらいです。

●イメージセンサーの仕組み

中判デジタルバックとデジタル一眼の価格差の最大のポイントは、このセンサーサイズによります。イメージセンサーはサイズが大きくなればなるほど歩留まりが悪くなり、価格は双曲線を描いて高価になります。けっして高画素数が原因ではないのです。ただし、大きなセンサーの場合、画素数を増やすために無理をして画素ピッチを小さくする必要がない、という点は大きなアドバンテージとなります。これにより同じ画素数であっても画素ピッチに余裕を持たせることができ、「1画素」が捕らえることができる光の階調をより多く取り込むことが可能になっているのです。もちろん35mmタイプのデジタルカメラでは不可能な8,000万画素も実現できています。

さらに大きな「ボケ」も期待できます。より精細な画像記録も期待できるのです。では大きなイメージセンサーが私たちにもたらす恩恵とは何かを考えてみましょう。


デジタルカメラの性能を語る場合、よく画素数が第一に挙げられます。画素数は横の広がり、記録する点の総数を表します。しかし、これだけでは片手落ちで、縦の広がり、どれだけ深い階調を持っているか、ということもきわめて重要なのです。幅広い階調を記録できれば、それは限りなく「アナログの曲線」に近づいていくことになるのです。

中判デジタルバックもデジタル一眼も、使用しているイメージセンサーは両者ともに RGBG(レッド/グリーン/ブルー/グリーン) の ベイヤー配列と呼ばれる方式で、この仕掛けに大きな差はないのですが、まずベイヤー配列のデメリットを確認しておきましょう。

●1,200万画素のデジタルカメラ、実は900万画素?

基本的にイメージセンサーは、光の量を記録することはできても、「波長」、すなわち色彩を記録することができません(モノクロでしたら文句なく撮影できるのです)。そこでカラー画像を取得するためにマトリックスフィルターと呼ばれる「RGBG」のベイヤー配列のカラーフィルターを各受光素子に貼り付けて、それぞれの色の情報を記録します。

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▲イメージセンサーのベイヤー配列の概念図

Gチャンネルの画素は、Gの情報を記録しますが、RとBのデータは持っていない。それではカラーにならないので、上下からB、左右のピクセルからRの情報を予想、演算されます。

RおよびBチャンネルのGの情報は上下左右の画素から演算されるため精度が高い。つまりRとBは1,200万画素の1/4の300万画素程度、Gチャンネルが1/2の600万画素しかないわけです。きれいに輝度情報を収得できるのは一番明るいGチャンネルですから、Gチャンネルに2倍の量をあてがっているのは頷けます。

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▲Bチャンネルの分布
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▲Rチャンネルの分布
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▲Gチャンネルの分布

精細な輝度情報は全体の画素数の1/2しか持っていない…つまり、1,200万画素で撮影しても実データは900万画素で、残りは演算で得ている計算上の情報だということです。

かつての3ショットタイプのデジタルカメラが1,200万画素すべてにリアルな情報を持っているのに比べて、1ショット機はその半分のデータから演算されて1,200万画素を形成しているわけです。もっとも、演算性能も向上していますので、現実にはフル解像度の75%、1,200万画素であれば900万画素あたりが実際の性能だと考えていいようです。そのため、データの安全な拡大限界は150%といわれてきました。「空間周波数が低い画像であったときに200%までいける場合もある」というのが常識だったのです。

もっとも、この現象は800万画素以下では確かにそうであっても、1200万画素以上、特に2,400万画素を超えるとかなり弱まってくるようです。高画素化がこの常識を打ち破りました。1,600万画素を超えた頃に「あれ、普通に200%拡大してもいけそうだな?」という感触を持ち始めたものです。画素数が多いことに起因するメリットについては、次回検証します。

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▲Gチャンネルの画素(緑色の部分)

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▲RとBチャンネルのGの情報は上下左右の画素から演算される

●演算の出来不出来が画質を左右する

ともあれ、この演算の出来不出来がまさしく1ショットタイプデジタルカメラの性能を決定するといっても過言ではありません。この演算ミスが色モアレやピクセルモアレを起こし、実際はつながっている角度の薄い斜めのラインが切れ切れに見えたりすることになるのです。

マトリックスフィルターがあることで、カラー情報を得ることと引き換えに、解像性能を落としているのです。

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▲規則性を持った同心円と規則正しく並んだイメージセンサの画像をを重ねると、

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▲周波数が合致する(同じような大きさの部分)で干渉を起こし、ピクセルモアレが発生する

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▲花嫁のベールで色モアレを起こしている(クリックで拡大)

35mmタイプ一眼レフのほとんどは、この「モアレ」を引き起こさないようにするための手段として、これまた解像感と引き替えに「高周波成分を少しぼかして」モアレの発生を防ぐためのローパスフィルターを搭載しているのです。

ところが中判デジタルバックにはほとんどローパスフィルターが存在しません。1ショットタイプのベイヤー配列のイメージセンサは3,000万画素を超えるとモアレが発生する確率が格段に低くなるため、ローパスフィルターの必要がなくなるのです(まったく発生しないわけではありません)。

ニコンD800にローパスなしのモデルが用意されたのは当然のことだと言えるでしょう。ローパスフィルターという「画像にぼかしを入れる」邪魔なものがない分、レスポンス、切れが良い画像を拾得できることになります。

3,000万画素超の画素数が与えてくれる恩恵はかなり多いとみてよいでしょう。(2013年1月)

 

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▲ローパスフィルターあり(クリックで拡大)

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▲ローパスフィルターなしの画像(クリックで拡大)


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