連載
●中判デジタルのススメ
●インタビュー
Archive
●中判デジタル雑学講座
●「Capture One」スタートアップ講座

●中判デジタルカメラ関連リンク集

第3回:中判デジタルの歴史その3〜3ショットから1ショットの時代へ

鹿野宏/カメラマン http://www.hellolab.com
電塾 http://www.denjuku.org/

ここでは、中判デジタルカメラの入門者向けの記事として、中判デジタルカメラとは何か? デジタル一眼などと比較してどこが優れているのか? などをセンサー、レンズなど具体的な項目ごとに解説していく。今回はデジタルバックの話。そのスタートは現在のデジタルカメラのように1回シャッターを切れば写る1ショットではなく、RGB(赤緑青)の3色のフィルターごとにシャッターを切っていく3ショットタイプから始まった。

●RGBのフィルターを必要とした3ショット機

さて、そろそろ本命のバッグタイプのお話しに入りましょう。バックタイプとは、カメラ本体の後部に、フィルムの代わりにイメージセンサーの入ったボックスを取り付けるタイプの製品です。1992年頃から登場しはじめたバッグタイプは、そのほとんどが最初は3ショットタイプでした。

CCDは、基本的に明暗しか記録できません。つまりCCDはモノクロ画像しか撮影できないのです。そのために、イメージセンサー(CCDなど)の前にRGBのフィルターを取り替えながら3回撮影し、そのデータを内部で合成してカラー画像を得る。これが3ショットタイプと呼ばれるデジタルカメラの仕組みです。

3ショット機は原理的に、動く物は撮影できないのですが、止まっている物は驚くほど端正なデータが記録されます。1992年にLeaf DCB1が世界初のデジタルカメラバックとして発売されており、筆者が始めて見たデジタルカメラが1996年発売のDCBIIだったと記憶しています。

photo

▲3ショット機はRGBのフィルターを必要とした

当時のリーフ社が3ショット機の代表格です。「Leaf DCBII」は、フィルターを回転させながら撮影するため取り込み時間が長くかかりますが、CCDを電子冷却することでダイナミックレンジを拡げ、通常の256階調に対して16,384階調で出力を可能にしています。

ハイエンドデジタルカメラの基礎を築いた、安定した実力のカメラだと言っていいでしょう。別売の画像変換ソフト「カラーショップ」を使うと、RGBからCMYKプロセスカラーへの変換を16,384階調のまま効率的に行うことができます。本機は画素数を400万画素から600万画素ヘ上げていきました。今から思うとたった600万画素ですが、3ショットタイプはRGBそれぞれ実画像を取り込んでいるため、3倍の1,800万画素となります。その作り出されたデータはロスがなく、200%に拡大してもまったく問題がないデータを提供していました。ただしレンズ前のフィルターが巨大で接写には向かない、動体は撮影できないというデメリットもありました。

 

photo

▲1996年頃の3ショット機の代表格だったリーフの「Leaf DCBII」

MegaVision社の「T2 Digital Camera」。ライティングソースを選ばずストロボも使え、約412万画素の画像を3秒で取り込みました。3ショットタイプでありながらフィルターを内蔵にしていたため、レンズ前の邪魔なターレットがなく、ジュエリーや時計なども撮影でき、商品撮影の80%はこなすことが可能だったのが売りでした。

1点の撮影保存が10秒ほどですむため、非常に生産性の高いデジタルカメラで、アダプタを用いればニコンの一眼レフ用レンズが使えたため、業務用の高解像度デジタルカメラでワイドレンズが使える数少ない機種でもあります。

同社のドライブソフトは各階調ごとにグレイを保証するコマンド等を持ち、秀逸でしたが、取り扱いにはそれなりの「知識と能力」を要求するカメラでもありました。 

確かにこれら3ショット機から得られた画質は素晴らしい物がありました。ただ、繰り返しますが、動体は撮れません。プロの仕事に限らず、動体の被写体はいくらでもあります。そこで、RGBGというベイヤー配列(コダックが開発)のフィルターをイメージセンサー直前に装着することで、1ショットの撮影を可能とし、さまざまな制約から逃れることを目指したのです。

photo

▲3ショットタイプでありながらフィルターを内蔵していた「T2 Digital Camera」???

●いよいよ1ショット機の時代へ

リーフの「CatchLight」は、画素数こそリーフデジタルカメラバックに比べて1割強少ないものの、動体撮影に対応した、1ショットでフルカラー撮影できるマトリックスフィルタータイプのカメラバックです。

独特な配色の4色のモザイクフィルターを使用し、保存形式も独自フォーマットです。1,920×1,920画素、約370万画素の画像データを最短2〜7秒間隔でメモリ上に取り込むことができます。取り込んだ画像を専用のプロセッサソフトで最適な精度を選択して、1枚あたり約8分で汎用のデータに展開します。このプロセス処理はバッチ処理が可能です。ちなみにリーフ社は、現在はフェーズワンの傘下に入りました。

 

photo

▲リーフの1ショットデジタルカメラ「CatchLight」

フェーズワンの 「LightPhase」は、後のHシリーズの前身となるタイプで600万画素機。1998年に発売されたフェーズワンの初めての1ショットタイプです。後工程を押さえるために近赤外線カットフィルターを搭載した初期のモデルでもありました。フェーズワンは当初から「カメラは1ショットであるべき」という姿勢を示し、3ショットやマルチショットは開発しませんでした。この方針の正しさはその後の歴史が証明しています。

画質は3ショットタイプに比べてやや落ちるものの、そこを画素数を増やすことでカバーし、当初から利便性、動体を含めたどんなシーンでも使用できるというアドバンテージは、ファッション、あるいはモデルがらみの撮影もデジタル化させました。

また、そのまま印刷原稿として使用できるデータを出力できる優秀な変換ソフトを同梱していました(もともとが印刷用スキャナを開発していたメーカーの強みですね)。とはいえ当時はまだまだ「コンピュータに直結して」撮影するスタイルでした。

photo

▲フェーズワン初の1ショットデジタルカメラ「LightPhase」

コダックの「DCS465」。いくつかのカメラボディに対応したDCS465もよく売れたカメラバックでしょう。この頃はCCDを自社生産しているコダックはある意味「特別な位置」を占めていた言ってもいいでしょう。

このイメージセンサーをキヤノンやニコンのボディに搭載したDCS460もかなりの数が販売され、「デジタルカメラをオフラインで使用するとこんなに素敵!」というイメージをカメラマンに植え付けました。この後バックタイプカメラもバッテリーと液晶モニタを装備し、「オフプラグド」で撮影できるスタイルを目指すようになります。残念ながら、ご存じのようにコダック社はデジタルカメラ部門を売却してしまい、現在プロ用のデジタルカメラは生産していません。

photo

▲コダックの「DCS465」

「Carnival2000」は、カラークリスプ社というデンマークの会社が後発で発表したデジタルカメラで、動体撮影が可能なシングルショットと高品位のマルチショットを1台のカメラで使い分けられる画期的なデジタルカメラでした。当時の標準画素数である400万画素 のCCDを使った3ショットタイプのFotex F10やLeafのDCBIIとほぼ同価格であったため、 コストパフォーマンスの高い製品です。

マルチショットモードとは、R、G1、B、G2の順に配列されたマトリックスフィルタが4個一組CCDの直前に固定され、CCDには密着してピエゾ素子が配置されていま す。G1フィルタポジションで1ショット、Rフィルタポジションで1ショット、G2フィルタポジションで1ショット、最後にBフィルタポジションで1ショット、合計4ショット1ピクセルずつピエゾ素子に信号を送って CCDを移動することで、3ショットタイプと変わらない品位の画像取り込みに成功しています。。

問題は撮影にかかる時間で、38秒と遅いこと、実画像データとしてハードディスクに保存されるまでに2分30秒ほどかかること(PowerMac 8100/80使用時…当時のデータです)、マルチショット撮影が不安定で失敗する確率が高かったこと、 シングルショットの画質がもうひとつなので、当時「じゃじゃ馬なデジタルバッグ」と評されていました。

ともあれ、このカメラの出現は「シングルショットがなければデジタルカメラとしては不完全だ」という思いの結晶だろうと感じられ、この方式は現在もジナー社、ハッセルブラッド社のデジタルカメラの一部に引きつがれています。

さて、筆者がこれまで触った、あるいはテストした機種を中心にデジタルカメラの歴史を振り返ってきました。黎明期は「オールマイティ」なカメラが存在せず、目的に応じて、開発手段に応じて、さまざまなタイプのデジタルカメラが発生してたのです。

●方向性が収束してきたハイエンドのデジタルカメラ

ビデオカメラタイプは研究用途に、スキャナタイプはアーカイブ目的で、今でも現役ですが、コマーシャルフォト、あるいは「写真家が持つカメラ」ではほとんど存在感がなくなりました。高品質を謳われた3ショット機もマルチショットとして一部の機種に残っていますが、これも動体を撮影できないカメラなのでアーカイブ目的としてしか使用されていないようです。(もともと美術品を巨大なデータで撮影する仕事が多いため、実は筆者も1台所有しています。筆者の場合は必要なのですね)。

そして現在主流なのが、35ミリタイプはもちろん、バックタイプデジタルカメラもどのような被写体も撮影でき、オンコードでもオフコードでも撮影できる1ショット機となったのです。

ただ、1ショット機はその構造上「演算」が不可欠なため解像感は実画素の2/3。200パーセント拡大が厳しい場合もあり得ます。また、色分離の悪さ、モアレの発生なども問題でした。35ミリタイプのデジタルカメラはこれをコンピュータによる急激な技術革新の能力、やや解像感を失ってもモアレを軽減させるアンチエイリアスフィルターなどで解決してきました。でも、最大の解決策は「画素数を増やす」ことだったのです。目伸ばしが難しければ最初から大きな画素で撮影する、画素数がある一点(2,400万画素程度と想像する)を超えるとモアレの発生する確率は極端に減る、画素数が多いことで色分離の悪さも回避できる…などなど。
これらを考え合わせると「画素数の多さ」は、実は品質向上の一因であることが分かります。35ミリタイプのデジタルカメラがそのセンサーサイズの縛りで最大でも800万画素だった時代に、バックタイプは倍の1,600万画素をクリアーしていました。

次回は、現在主流となった1ショット機の中の35ミリタイプとバックタイプの違いを見ていきたいと思います。(2013年12月)

photo

▲カラークリスプの「Carnival2000」はマルチショットタイプ


| ご利用について  | 広告掲載のご案内  | プライバシーについて | 会社概要 | お問い合わせ |
Copyright (c)2010 colors ltd. All rights reserved