スキャナータイプは当時はPhase One、BetterLight、パイオニア、ライカなどのメーカーがしのぎを削っていました。基本は3色のラインCCDが受像面の空中像をスキャンしながら取り込む形です。RGBすべてが実データで何の水増しもされていないため、取り込みに成功すると実に端正なデータを記録していました。
Phase Oneから最初に発売されたのがこのスキャナータイプ(もっともカメラバックタイプが開発発表されたことはありましたが、それは1998年以降のこととなります)。シャッタースピードが選べなかったのですが、その弱点は「 Photo Phase Plus 」の登場でかなり解消されました。Phase Oneは元々が製版用のスキャナーを開発、販売していた関係で製販用の出来の良いソフトを同梱していた点で一歩先にいっていたようです。
最終的に発売されたPhase One製「Power Phase FX+」は、1億3,230万画素を実現していました。この機種は現在もアーカイブ、印刷用素材撮影などで現役で活躍しています。
「ダイコメッドスタジオプロ」は6,000素子のラインCCDをRGB3列使用した最大取り込み画素6,000×7,520、約4,500万画素の高画質立体スキャナタイプのデジタルカメラバックです。最大画素129.1MBのデータ取り込みに最短1/50秒のシャッター速度で2分30秒しかかかりません。シャッター速度は最長1/8秒まで可能でした。PowerBookと組み合わせてロケ撮影にもオプションで対応しています。
取り込み用のプリセットカーブがフィルムの特性を研究して作られていて肩と脚が寝ているのでデジタルカメラには珍しく露出許容度が広くなっています。画質は素晴らしいですが画質を保証するために毎ショットごとに暗電流をチェックするなどカメラとしての操作性の悪さがマイナスポイントです。立体スキャナーとして考えた場合は多少操作性が犠牲になっても、よりよい画像が得られることのメリットは大きいでしょう。
パイオニアもスキャナータイプデジタルカメラを作っていました。素晴らしい性能をたたき出していましたが、確か日本で3台しか売れなかったと記憶しています。手元にはすでにスペックさえ残っていません。
また、ライカが始めて作ったデジタルカメラはライカS1。これも素晴らしい出来のカメラでしたが…スキャナタイプにしてはに高価だったため、指をくわえてみているだけでした。余談ですが、この後を継いだのが12年後となる2011年に発売されたライカS2で、その後ライカSへと変遷していきます。
この後BetterLightという金額が安く、取り込みがスキャナータイプとしては高速でしかもノイズも少ないというとてつもない優等生が現れ、スキャナータイプはこの機種に集約したと記憶しています。BetterLightはさらに進化して10,200×13,600=138,720,000画素という巨大なデータを取得できる製品もあり、今でもアーカイブなどの目的で販売されているようです。
筆者もスキャナータイプの小型版、AGFA STUDIOCAMという35�フルサイズのセンサーを持つスキャナータイプを購入し、デジタルカメラによる撮影を開始しました。当時、150万円で1,600万画素をたたき出すデジタルカメラ(1画素で約1,000円)は、他に存在していませんでした。静止物はスキャナータイプで、動体はDS-506で撮影、という用途によって使い分けるスタイルでした。
3,648ピクセルの3ラインCCDを使用したスキャナタイプのデジタルカメラで、最大3,648×4,500ピクセル(16,416,000画素)の高解像度データを光量を確保できれば3分ほどの露光時間で得ることができました。
ただ、地面が震動すると使い物にならない、電源が安定供給されないと画像にノイズが走る、連続して使うと熱を持ちノイズが発生しやすくなるなど、いくつか問題がありました。そのためにスタジオの基礎を補強したり、より強力なエアコンを購入、電源安定器の導入、果ては2台用いて冷やしながら撮影する…という羽目になりました。
そういえば当時は「シャッターを切ります」と声をかけ、それから1分ほどは話もしないで息を潜めていたものです。ホントは声は記録されないから声を出しているのは構わないんですけど、つい息を止めてしまうのですね。できるだけ露光時間を短くするためスキャニング方向を短辺に合わせたり、バルカーの蛍光灯光源(1台40万円のフルックスライトを3台とスキャンドルライトを2台)を購入したりと…どうも思ったほど安くはなかったようです。
スキャナータイプのデジタルカメラは本体が比較的安価で、大画素で高精細ではあるものの、撮影するために新たな投資がかかり、コンピュータが必須で撮影時間も長くかかるため、徐々に表舞台から消えていきました。現在生き残っている製品は美術館などのアーカイブ目的や、化粧パネルなどのための木材や石面の撮影に使われているようで、コマーシャルの世界からはほとんど姿を消したと言っていいでしょう。
次回はカメラバックタイプの3ショットタイプ、そして現在主流のシングルショット機のお話です。(2012年10月)
参考サイト:
●「早川廣行の世界」http://www.denga.jp/10hayakawa/
●Wikipedia
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