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第2回:中判デジタルの歴史その2〜ビデオタイプ、スキャナータイプデジタルカメラ

鹿野宏/カメラマン http://www.hellolab.com
電塾 http://www.denjuku.org/

ここでは、中判デジタルカメラの入門者向けの記事として、中判デジタルカメラとは何か? デジタル一眼などと比較してどこが優れているのか? などをセンサー、レンズなど具体的な項目ごとに解説していく。今回も、中判デジタルカメラが現在に至るまでの歴史を製品ベースでざっと振り返っていく。

●デジタルビデオカメラ時代

前回はワンショットタイプデジタルカメラの歴史を紹介しましたが、1990年代後半から2000年前半までの黎明期には、それ以外にもさまざまなタイプのデジタルカメラが存在していたのです。

それはそれはまさに「百花繚乱」という時期でした。以下に紹介する機種以外にもフィルムを介在してアナログとデジタルの中間をいくような製品もあったと記憶しています…それは発売には至りませんでしたが。

ビデオタイプのデジタルカメラは、当時「デジタルビデオカメラ」と呼ばれていたんですね。当時のビデオはまだ完全にアナログでした。今ではビデオカメラもすべてデジタルになり、「デジタルビデオカメラ」はビデオカメラを差します。「デジタルビデオカメラ」の可能性は高かったものの、今では絶滅機種となってしまいました(監視カメラなどでは残っている可能性がありますけど…)。もともとビデオカメラを製造していたノウハウを持つメーカーがデジタルカメラに参入しようと開発し、その特性を生かして作られた結構ユニークなカメラたちです。筆者としてはリモートコントロールが可能、ものによってはズーミングまでリモコン可能だと言うことで、かなり興味を持ってテストしたのですが…結局このタイプは1台も購入しませんでした。購入に至らなかったのは「将来的に育つカメラではなさそうだ」という判断でしょうか? 今ではもう忘れてしまいましたが、以下当時の製品を少し紹介します。

「Fuji-HC2000」が当時の「デジタルビデオカメラ」の代表格です。「Fuji-HC1000」の後継機で色分解プリズムを使って光を3方向に振り分け3枚のCCDを使用してカラー画像を得る仕掛けを持ち、シャッターは1/4秒から1/2000秒までの電子シャッターで、ストロボからタングステンまで光源は幅広く対応していました。NDフィルターを内蔵、電動ズームを装備するなど、まさしく当時のビデオカメラです。ただ、きちんと3方向に光を振り分け、その後に合成するため、高い精度が要求される、感度を高く設定できない、などのデメリットもありました。また「カメラ」という概念からかなり遠いスタイルで日本では敬遠されたようですが、操作の自由度の高さが評価されアメリカなどでは商品撮影といえばこの機種に代表されるほど普及したそうです。

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▲アメリカで普及した「Fuji-HC2000」

カミオカンデ(KAMIOKANDE:ニュートリノを観測するための観測装置)で有名になった浜松フォトニクスもデジタルカメラ業界に参入していました。「IQ-PC200」です。独自の空間画素ずらし機構によって1,000×1,018画素角の小さな平面CCDを水平方向に「画素ずらし」を行い、2,000×2,036画素(約400万画素)の画像を取り込むことができました(この技術は後にイマコンイクスプレス社やジナー社に引き継がれました)。CCDを電子冷却するこにより60デシベルという高ダイナミックレンジを実現していました。1ショット中にRGB回転フィルタと回転シャッターを連動させてRGBデータを取り込む疑似1ショットタイプ方式のため、ストロボが使えないのが欠点でした(シャッター秒数200ミリセコンド)。キヤノンとニコンマウントの一眼レフ用のレンズが使え、キヤノンのAFレンズを使用する場合は、フォーカスと絞りをコンピュータ側からコントロールすることができました。これならライブ画像を見ながら絞りやフォーカスをコントロールできるので、俯瞰撮影が多かった筆者はほとんどこの機種を買う気でいました。今では当たり前にできることですけどね。

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▲浜松フォトニクスの「IQ-PC200」

ビデオカメラで有名な朋栄も「HMC-1220」というカメラで参入していました。本機は、2,048×1,536画素(約300万画素)のデジタル画像とハイビジョン静止画カメラ用に16:9の横長ワイドな画面比率のアナログ画像が得られました。モニタリング用に4:3比率のアナログ画像も出力できます。RGB回転フィルターを採用した疑似1ショットタイプの3ショット型デジタルカメラで、こちらもストロボには対応していません。2/3インチ40万画素のCCDを複数回ずらすことによってハード的に高解像度を実現しています。シャッタースピードは1.44秒と比較的高速ですが、全体の取り込み時間は1ショットあたり12秒ほどかかり、レンズはCマウントでした。

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▲朋栄の「HMC-1220」

「コントロン・プログレス3012」は1エリアCCDのスキャナータイプで、小型ビデオカメラモジュールのような形態です。レンズマウントはこちらもCマウントでした。2/3インチの量産型エリアCCDを使用して素子と素子の間をピエゾ素子でコントロール、ハード的にミクロン単位で移動補完することによって4,491×3,480画素、約1,600万画素という高解像度を実現しています。マトリックスフィルタータイプなのですが、素子ごとのデータを重ねながらずらして補完演算することで完璧なカラー情報を作成しており、疑似カラーはまったくでません。3CCDタイプや3ショットタイプと同様に200%拡大は実用範囲です。スキャニングは30秒、プロセッシングに90秒、データの保存に30秒、合計2分30秒が最高解像度での取り込みにかかる時間でした。今思うとびっくりするスペックですが…撮影に成功するとまったく偽色が出てこない非常に端正なデータを得ることができ、当時私は本気でこの機種も購入を考えていました。このマイクロスキャン方式は浜松フォトニクスとほぼ同様の考え方だったようです。

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▲1エリアCCDのスキャナータイプ「コントロン・プログレス3012」

もちろん科学研究用、監視用途、顕微鏡撮影用途などで今でも製造されてはいますが、これらのカメラはその後カメラマンに使用されることはほとんどありませんでした。やはり「スタジオ、特にフィールドで使用しにくい」ということが最大のデメリットだったようです。でもマイクロスキャンなどの技術は次世代に受け継がれていきました。

●スキャナータイプのデジタルカメラ

さらにスキャナータイプのデジタルカメラもありました。当時400万画素機が400万円していた時代に、1,600万画素以上の巨大かつ精細な映像を得るためには、唯一スキャナータイプだけがリクエストに応えてくれたのです。こちらはもともと存在しているスキャナー技術を上手く流用して4×5のバックに取り付けて撮影するため、4×5のサイズもほとんどそのまま、ファインダーもそのまま、フィルムホルダーの代わりにスキャナーを差し込めばそれで撮影できるという手軽さからかなり普及していました。

小さいもので1,600万画素から一億画素超まで存在し、大型ポスターやアーカイブに重宝されていました。ただ、感度が低く、ストロボが使えない(スキャンしていく間光り続けることが必要だったのですね)ため、物撮りや絵の複写には使えてもそれ以外の用途では上手く使えず大変でした。露光中に(20秒から5分ほどかかる)ショックがあったりブレたりすると「最初からやり直し」でしたが、画像拾得に成功したデータは今見てもとても綺麗で驚くほど端正です。

スキャナータイプは当時はPhase One、BetterLight、パイオニア、ライカなどのメーカーがしのぎを削っていました。基本は3色のラインCCDが受像面の空中像をスキャンしながら取り込む形です。RGBすべてが実データで何の水増しもされていないため、取り込みに成功すると実に端正なデータを記録していました。

Phase Oneから最初に発売されたのがこのスキャナータイプ(もっともカメラバックタイプが開発発表されたことはありましたが、それは1998年以降のこととなります)。シャッタースピードが選べなかったのですが、その弱点は「 Photo Phase Plus 」の登場でかなり解消されました。Phase Oneは元々が製版用のスキャナーを開発、販売していた関係で製販用の出来の良いソフトを同梱していた点で一歩先にいっていたようです。

最終的に発売されたPhase One製「Power Phase FX+」は、1億3,230万画素を実現していました。この機種は現在もアーカイブ、印刷用素材撮影などで現役で活躍しています。

「ダイコメッドスタジオプロ」は6,000素子のラインCCDをRGB3列使用した最大取り込み画素6,000×7,520、約4,500万画素の高画質立体スキャナタイプのデジタルカメラバックです。最大画素129.1MBのデータ取り込みに最短1/50秒のシャッター速度で2分30秒しかかかりません。シャッター速度は最長1/8秒まで可能でした。PowerBookと組み合わせてロケ撮影にもオプションで対応しています。

取り込み用のプリセットカーブがフィルムの特性を研究して作られていて肩と脚が寝ているのでデジタルカメラには珍しく露出許容度が広くなっています。画質は素晴らしいですが画質を保証するために毎ショットごとに暗電流をチェックするなどカメラとしての操作性の悪さがマイナスポイントです。立体スキャナーとして考えた場合は多少操作性が犠牲になっても、よりよい画像が得られることのメリットは大きいでしょう。

パイオニアもスキャナータイプデジタルカメラを作っていました。素晴らしい性能をたたき出していましたが、確か日本で3台しか売れなかったと記憶しています。手元にはすでにスペックさえ残っていません。

また、ライカが始めて作ったデジタルカメラはライカS1。これも素晴らしい出来のカメラでしたが…スキャナタイプにしてはに高価だったため、指をくわえてみているだけでした。余談ですが、この後を継いだのが12年後となる2011年に発売されたライカS2で、その後ライカSへと変遷していきます。

この後BetterLightという金額が安く、取り込みがスキャナータイプとしては高速でしかもノイズも少ないというとてつもない優等生が現れ、スキャナータイプはこの機種に集約したと記憶しています。BetterLightはさらに進化して10,200×13,600=138,720,000画素という巨大なデータを取得できる製品もあり、今でもアーカイブなどの目的で販売されているようです。

筆者もスキャナータイプの小型版、AGFA STUDIOCAMという35�フルサイズのセンサーを持つスキャナータイプを購入し、デジタルカメラによる撮影を開始しました。当時、150万円で1,600万画素をたたき出すデジタルカメラ(1画素で約1,000円)は、他に存在していませんでした。静止物はスキャナータイプで、動体はDS-506で撮影、という用途によって使い分けるスタイルでした。

3,648ピクセルの3ラインCCDを使用したスキャナタイプのデジタルカメラで、最大3,648×4,500ピクセル(16,416,000画素)の高解像度データを光量を確保できれば3分ほどの露光時間で得ることができました。

ただ、地面が震動すると使い物にならない、電源が安定供給されないと画像にノイズが走る、連続して使うと熱を持ちノイズが発生しやすくなるなど、いくつか問題がありました。そのためにスタジオの基礎を補強したり、より強力なエアコンを購入、電源安定器の導入、果ては2台用いて冷やしながら撮影する…という羽目になりました。

そういえば当時は「シャッターを切ります」と声をかけ、それから1分ほどは話もしないで息を潜めていたものです。ホントは声は記録されないから声を出しているのは構わないんですけど、つい息を止めてしまうのですね。できるだけ露光時間を短くするためスキャニング方向を短辺に合わせたり、バルカーの蛍光灯光源(1台40万円のフルックスライトを3台とスキャンドルライトを2台)を購入したりと…どうも思ったほど安くはなかったようです。

スキャナータイプのデジタルカメラは本体が比較的安価で、大画素で高精細ではあるものの、撮影するために新たな投資がかかり、コンピュータが必須で撮影時間も長くかかるため、徐々に表舞台から消えていきました。現在生き残っている製品は美術館などのアーカイブ目的や、化粧パネルなどのための木材や石面の撮影に使われているようで、コマーシャルの世界からはほとんど姿を消したと言っていいでしょう。

次回はカメラバックタイプの3ショットタイプ、そして現在主流のシングルショット機のお話です。(2012年10月)

参考サイト:
●「早川廣行の世界」http://www.denga.jp/10hayakawa/
●Wikipedia

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▲スキャナータイプの概念図

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▲Phase Oneの「 Photo Phase Plus 」

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▲Phase Oneの「Power Phase FX」

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▲約4,500万画素の高画質立体スキャナタイプのデジタルカメラバック「ダイコメッドスタジオプロ」

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▲ライカ初のデジタルカメラ「ライカS1」

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▲スキャナータイプの優等生「BetterLight」

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▲筆者も利用した「AGFA STUDIOCAM」


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