●PCJ Interview
・File10 酒匂オサム
・File09 P.M.Ken

・File08 高木こずえ
・File07 太田拓実
・File06 鈴木心
・File05 青山裕企
・File04 小山泰介
・File03 奥本昭久
・File02 常盤響
・File01 辻佐織

●Company File
・File08 アドビ システムズ
・File07 富士フイルム
・File06 駒村商会
・File05 ジナー
・File04 ハッセルブラッド
・File03 シグマ
・File02 フェーズワン
・File01 ライカ

●Overseas Photographers
・File08 Michael Kenna
・File07 Todd McLellan
・File06 Mona Kuhn
・File05 Diana Scheunemann
・File04 Albert Watson
・File03 Nick Meek
・File02 Rankin
・File01 Ron van Dongen

 page 02

▲2010年のフォトキナ2010で発表された、ライカとフォルクスワーゲンのコラボによって生まれた「ライカM9チタン」。デザイナーのWalter de'Silva氏はレンジファインダーカメラであるMシリーズの特性を失うことなく、人間工学に基づいて明快で使いやすいデザインを与えた(クリックで拡大)

▲35mmフルサイズより約60%大きい、30×45mmのコダック製3,750万画素CCDセンサーを内蔵した一体型のプロユース向けデジタルカメラ「ライカS2」(クリックで拡大)



●新フォーマットのライカSシステム

−−ミドルフォーマットカメラのライカSシステムについてお伺いします。ライカS2と言うことはライカS1もあったのでしょうか。

大上:はい。実はライカS1というスキャニングタイプのカメラを1998年に発表していました。ただ、日本で売れたのがほんの数台で(笑)、ラインCCDを3本スキャニングさせるタイプのカメラですから、静物しか撮れないものです。それでもハイエンドデジタルカメラは当時、コダックと一部のメーカーでしか手がけていなかったので、ライカがそれに先駆けてライカS1を作ったのはエポックメーキングなことでした。ただし、今のライカS2との共通点はほとんどないと言えますね。でも、プロ向けのハイエンドデジタルカメラだという点ではマーケットは同じですから、その2号機ということでライカS2というネーミングになったわけです。

−−なるほど。1998年ですから10年以上昔ですね。

大上:ライカS2は10年後の2008年9月の「フォトキナ2008」で、発表させていただきました。

−−他社製品のミドルフォーマットデジタルの動向などを含めてライカS2の開発経緯はいかがでしたか。

大上:やはりプロ向けのミドルフォーマットカメラということが開発の一番大きなコンセプトで、プロフェッショナルマーケットにおけるハイエンドカメラへの新しいアプローチをしているという意識がありました。でも、ここがライカの良い点でもありますが、唯我独尊と言うのでしょうか、あまり競合は意識してはいませんでした。もし意識していたらまずこういう形にはならなかったと思いますね。

−−もともと一眼レフカメラはライカRシステムとしてずっと続いていましたね。ライカRシステムとの関連はいかがでしょうか。

大上:ライカS2はライカRシステムの後継機種であるとも言えます。いわゆるスナップカメラはライカのコンセプトですから、ライカRシステム同様に屋外でも手持ちで撮れるカメラであることはライカS2開発の大前提でした。それこそライカS1ではないですが、スタジオの配線の中で撮影するのではなく、自由にハンドリングできるカメラですね。

−−ライカRシステムと初代ライカSを合体させたというイメージでしょうか。

大上:当時、市場では35mmフィルムカメラのライカR9に続く、35mmフルサイズのセンサーを入れた、ライカR10の登場がとても期待されていたと聞いています。R9を正常に進化させればR10になると思うのですが、それを一度打ち切って新しくよりハイエンドなカメラを目指すためのレンズシステムに刷新しました。それはライカR9が悪かったという意味ではなく、フォーマットをより大きくし、解像度をさらに上げて、プロの方々にもうこれで十分であると感じてもらえる画質をたたき出すためには新しい設計が必要だったわけです。

−−ライカR9を継承しつつ新時代へのソリューションを開発された。

大上:ライカRシステムは終了し、ライカSシステムという新しいアプローチになりました。ですからレンズもすべて新設計になっています。

−−ライカS2ではCCDに3,750万画素のコダック製30×45mmを採用しました

米山:ライカにはライカ判、35mmへのこだわりがあまりにも強かったので、反対意見もあったようですが、いざライカR9に続くライカR10を出そうかと検討したときに、他社と比べてライカR10で最高のものが出せるのだろうかという声が上がってきたのです。それで、どうせなら新しいシステム、新しいフォーマットに変えてライカの最高峰を極めようという結論に至ったわけです。その代わりにライカ判と同じアスペクト比は保持した方がやはり良いだろうということでこの30×45mmになりました。ですから、今後はこれを新しい「ライカプロフォーマット」として提唱していきます。

−−他社の動向は気にされていなかったわけですね。

大上:ええ。値段の話はとりあえず別にして、オリジナリティがあってなおかつクオリティが良いものをとにかく作っていったという部分はありますね。

−−他社はすでに8,000万画素のセンサーを採用始めました。

大上:ライカS2は3,750万画素ですが、今後後継機が出たら解像度も上がっていくのかと開発者に聞いたところ、「上げる必要はない」「これがベストマッチングである」という答えでした。たしかにプロカメラマンなら時に4,000万画素以上の仕事がありますが、その場合でもライカS2はレンズとのコンビネーションによってそのクラスの解像度はたたき出しているので必要ないのですよね。

どんどんセンサーも大きくなっています。逆に言えばそれはバックタイプのカメラの得意とすることかもしれませんが、ライカはそこと競うわけではありません。実際、市場的にも4,000万画素前後が1つの区切りになっていますし、他社もそこが一番使いやすいというアプローチをしていると思います。

−−日本のプロカメラマンはニコン、キヤノン、ミドルフォーマットならPHASE ONEが主流のようです。そこでカメラマンがライカS2を選択する理由はどこにありますか? 例えばニコン、キヤノンユーザーを取り込みたいという狙いはあるのでしょうか?

大上:ニコン、キヤノンのユーザー層を取り込もうとは思っていませんね。もちろん取り込めたらいいのでしょうが(笑)。我々はそういうアプローチではありませんね。実際、ニコン、キヤノンのユーザーさんがPHASE ONEなどのいわゆるハイエンドなフォーマットカメラを必要とするときの選択肢の1つとして検討していただいています。

フィルムカメラの時代からカメラマンは35mm、120、あるいは4×5などと用途によって使い分けていますし、ライカS2もそういうハイエンドの道具としての位置づけです。ですからライカS2でしか撮れないクオリティや仕事の場合にお選びいただいています。外観が35mmに似ているので、今後は35mm市場を狙うのかという話になりかねませんが、それは全然違います。

−−なるほど。実際にライカS2をお使いのカメラマンの感想はいかがですか。

大上:まずはレンズの描写力の良さ、フォーマットが大きくて非常にボケがきれいで秀逸であると言っていただいています。ボケ味と言うのでしょうか、ストーンと落ちるのではなく非常になだらかなボケが生まれます。人物や物撮りどちらにも広くお使いいただいています。

−−現時点でレンズは何本揃っているのですか。

大上:焦点距離で35mm、70mm、120mmのマクロと180mmの4種類です。あとは、CSレンズ(セントラルシャッター)、つまりレンズシャッターのタイプを同じ焦点距離分で2011年の夏頃に出す予定です。実はこちらは予定より1年ほど遅れてしまっています。

いずれも焦点距離を35mmフィルム判に換算する場合、0.8倍します。つまり標準レンズであるS70mmは×0.8で、35mmフィルム判換算で56mm相当となります。

レンズシャッターであれば高速シンクロが撮れます。フォーカルプレーンの場合1/125秒以下でしか切れませんが、レンズシャッターの場合は1/500秒から8秒までシンクロします。屋外でのポートレート撮影などは非常に有利ですね。

−−ライカのユーザーにはハイアマチュア、いわゆるマニア層もたくさんいらっしゃるかと思いますが、ライカS2もそういったユーザーは多いのでしょうか。

大上:比率はあえて申し上げませんがかなり多いですね。ですから、我々はプロ向けと言っていますが、ハイアマチュアの方、Rシステムの長年のファンの方はもちろん、キヤノン、ニコンユーザーでライカS2に惚れて買っていただいているという方も大勢います。

要はプロの場合「このカメラで仕事はなんぼ取れるかな?」と減価償却を考えていますが、アマチュアの方は「女房を質に入れてもいい」と言う方もいらっしゃるくらいで(笑)、ありがたいことにライカを愛してくださっている方が多いですね。ですから、意外にフルセットでレンズを持っているのはアマチュアの方だったりもします。プロの方は1本、2本と仕事に必要な焦点距離のレンズだけをお求めになりますが、アマチュアの方は全部を買うこともありますからね。

−−大人買いですね(笑)。

大上:うらやましい限りです(笑)。量販店で買われる方もいらっしゃいますね。

−−当面はライカS2をロングライフに展開される予定ですか。

大上:そうですね。ライカ自体ライフスパンが長いので、基本的には中長期くらいのスパンで出していく予定です。

−−今後はレンズシャッター以外にもレンズを充実させていく方針なのですか?

大上:昨年秋のフォトキナで30mmの広角とさらにワイドな24mmのレンズの開発に着手したと発表しました。実際の販売予定は2011年内に間に合うのか、もしくは2012年になってしまうのか、現時点では分かりませんが、我々としてもワイドはスナップ系や建築系に威力を発揮するので、バックタイプの市場も狙えるかもしれないとビジネス的に期待しています。

−−ワイドレンズの場合は歪みがどうなるかですか?

大上:ええ。それをどの程度抑えられるかですね。ただ建築系などは特にそうですが、バックタイプでは狭いスペースでセットアップがしにくいケースでも、ライカS2なら手持ち撮影ができるので、新しいというか、より踏み込んだ使い方が可能になると思います。

−−ライカS2は発売からまもなく1年ですが、日本の市場あるいは世界的な市場の動きはいかがでしょうか。

大上:2010年2月の発売時には日本のハイエンドのマーケットの1/3のシェアの獲得を目標にしたのですが、おかげさまでそれにほぼ近づきつつあります。ただ、こうした経済状況ですから市場全体の流通力も落ちてきていますし、どうしてもプロ用商品なので厳しい状況であることも事実です。また、先ほどお話したように一部のレンズの発売が予定より遅れたためにスタートダッシュが不十分だったことが反省点ですね。

−−世界的にはいかがでしょうか?

大上:おかげさまで好調のようです。例えば、NYで有名な女性の下着メーカーの広告で撮っていただくなど、アメリカの景気は悪いと聞きますが台数はアメリカは多いみたいですね。やはりアメリカ、ヨーロッパの方が日本より多いとは聞いています。

−−ライカS2はスタジオでストロボを焚いてというよりは、むしろライカS2の特徴を生かし、屋外での手持ち撮影に使用されるスタイルが多いのでしょうか。

大上:日本と欧米のプロカメラマンの撮影スタイルがかなり違う点として、欧米の方は屋内外問わず手持ちでバンバン撮ることが挙げられますね。日本の場合、もちろん手持ちで撮る方もいらっしゃいますが、どちらかと言えば三脚でカメラを構えて、撮って、クライアントがその後ろに立っているというか、カメラマンなのかオペレーターなのか実際分からないようなケースも多いですよね。

−−(笑)。

大上:欧米ではたとえ歪んでいようと何であろうと、とりあえずどんどん撮る人が多いので、やはりそうしたスタイルにライカS2は最適なようですね。フォトグラファーとしてのエネルギーを前面に出した撮影には、スナップ感覚で撮れないカメラでは装置として使いにくい部分はあるでしょうからね。

−−ということは、連結撮影ではあまり使われないのですか?

大上:いえいえ、そんなことはないです。当然スタジオ撮影も想定してUSB2.0のポートがありますし、「Leica Image Shuttle」という専用ソフトも用意しています。またバンドルのLightroom3.2以降にテザーが標準でサポートされているので、それでもお撮りいただけるようになっています。

−−被写体や目的によって1台を自在に使い分けることができますね。

大上:そうですね。ただ、連結撮影においてもオペレーションは後回しで、とりあえずは撮影の方に集中していただくようなインターフェイスにはなっています。バックタイプだと、電源を2〜3つ入れないといけないなどいろいろな儀式がどうしてもありますからね(笑)。

−−それは確かにそうですね。

大上:そういう手順は必要なく、すぐにパッと撮れることもライカS2が35mmライクなミドルフォーマットカメラだという点だと思います。

米山:スタジオで使っていてもそのまま同じ操作で屋外に持ち出せますから、室内で撮っていて、今からロケーションに出ようかとそのまま気軽に持って行くこともできます。

−−一体型なのでピントの不安もないですね。

大上:ピント合わせはミドルフォーマットカメラでは一番速いかと思います。またファインダーが大きいですから、マニュアルフォーカスでも、とっても合わせやすい。解放F値F2.5のピントが見えるカメラは、他ではまずないとおっしゃっていただいていますね。例えば、ProCameraman.jpに載せていただいている画像はフォトグラファーの中村成一さんに撮っていただいたのですが、ピントがきている部分とボケの具合が絶妙でこうした撮影ができるカメラは他にはないと自信を持っています。

−−物撮り系とビューティー系というか人物系ではどちらにより強いのでしょうか。

大上:どちらかというとビューティー系でしょうか。とはいえ、瓶などの商品をS120mmマクロでお撮りいただいていますし、もちろん人物も撮りますのでオールラウンドです。何度も申し上げますが、形態的にいわゆる「振り回せるカメラ」なので、人物を追いかけるケースの方が合っているかもしれませんね。


●今後の展望

−−最後にライカのこれからの展望などをお聞かせください。

米山:ライカの代名詞でもあるMシステムに関しては、ライカのファンの皆さまが何をライカに求められているかという声を極力吸い上げて、それをフィードバックしながら次のMシステムはどんなものがいいのかと考えていきたいと思っています。

−−具体的な計画はありますか。

米山:ライカM9はフルサイズになってある意味完成型になったと思っています。またライカMP、ライカM7についてもある意味フィルムの完成型ですね。ですから今後はプラスαのご要望をお伺いして、それがない場合は現行品を継続して販売していくことになりますし、ご要望がある場合はそれを極力フィードバックしながら次を出していきたいというのが基本的なスタンスです。

ですから、アグレッシブにどんどん新しい機能を付加して展開していくということではないですね。基本はエルゴノミクス、つまりいかに人間が使いやすいかを最優先して、その使いやすい中でどんな新しいことができるかを探していきたいと考えています。

−−日本のユーザーの声はライカの開発にとって大きいのでしょうか。

米山:自動車でも何でもそうですが、ご存知のように日本のユーザーからは細かいご意見や厳しいご指摘が多いです。でも、それを極力フィードバックするようにしています。ただ、ライカのカメラはそうしたご要望を簡単に反映できるタイプのモノではない場合が多いので、そこが厳しいところですが、我々としても極力日本の皆様にご満足いただけるものを提供できるように努力しています。

−−欧米と比較すると日本の方がモノの消費サイクルが早くて、どうしても目新しいものばかりが好まれて増えていく傾向がありますね。

米山:やはりヨーロッパには良いものを長く愛用する傾向がありますね。我々としてもそのようにご理解いただける魅力ある製品をいかに作れるかが大事だと考えていますし、魅力があれば継続していくことは可能だと思っています。

例えば、ライカM3は50年以上前のカメラですが、オーバーホールしてまた元に戻りますからいまだに使っていらっしゃる方も多いです。部品の精度や材質など、モノ自体にも魅力があるのがライカの良さの1つでもあるので、そうやって今後も長いタームで愛用していただきたく思っています。

−−現在の市場についてですが、最近はムービーへの関心が高まってきてるように感じます。たいていのデジタルカメラはムービー機能を搭載していますが、ライカはムービーについてのお考えはありますか。

米山:それについても先ほどのお話とまったく一緒で、ライカに求めるご要望次第だと思っています。ライカの場合、フィードバックを受けてから開発に取り組む場合もあり、若干商品化は遅くなるかもしれませんが、ムービーへのご要望が多くなった場合はやるべきだと思っています。それがどの形で出るのかは分かりませんが、そうした声を無視してスチルにこだわっているということではありません。ライカカメラ社オーナーのDr.Kaufmannもムービーへの関心を示していました。

−−ちなみにライカユーザーには作家性の高いアーティスト系の方といわゆる商業カメラマンとどちらが多いのでしょうか。

米山:アーティスト系、広告系という分け方ではなくて、「ライカは1台持っておきたいね」「何かのときには使いたい」「プライベートで使いたいよね」ということで使っていらっしゃる方が多いようでして、少し特殊なポジションかもしれません。例えば、大御所と言われている方々は、仕事は一眼レフやブローニーでやっていらしても、プライベートではライカを使っている方はすごく多いですね(笑)。「9割以上いるのでは?」と話される方がいましたが、おかげさまでそれだけ愛されています。

−−ライカはこれだけ愛されていますが、例えば雑誌の撮影などではプロの現場ではあまり使われません。それは何故なのでしょうか。ライカの個性が突出し過ぎているのでしょうか?

米山:やはり1つには価格の問題があると思います。先ほどの話にあるように、とにかくMTF曲線をクリアしながら解像力の良いもの、ヘリコイドにしても真鍮とアルミのギアを使うなどディテールにもこだわって楽しみながらスムーズに微妙なピントができるカメラを追求していくとどうしても高価にならざるを得ないのです。

そこを多少妥協すればコストダウンできるかもしれませんが、それはライカがすることではないでしょう。今までも常に妥協をせずに品質を追求してきました。ただ、どちらが良い悪いということではありませんし、逆にこういう作り方だったからライカは今まで生き残ってこられたのかなと思います。

−−本日はありがとうございました。



| page 01|




↑Page Top


| ご利用について  | 広告掲載のご案内  | プライバシーについて | 会社概要 | お問い合わせ |
Copyright (c)2010 colors ltd. All rights reserved