・プロが愛用するコンパクトデジカメ

・私のレンズ、この1本





このコーナーでは、毎回プロカメラマンが愛用しているレンズについて、
作例とともに語っていただく。



▲「K」一桁台のボディとの組み合わせでは、リミテッドレンズやボディの質感だけでなく、重量バランスとホールディング、ピントリングの操作性などが絶妙にマッチしています



No.06


ペンタックス
「DA 35mmF2.8 Macro Limited」



文:藤城一朗(フジシロ イチロウ)
東京都出身。学習研究社映像局を経てフリーランス。エディトリアル、PR誌、インテリア、スポーツなどの依頼撮影以外に、植物をテーマとした写真を鋭意撮影中。ほかに写真教室の講師や、カメラ誌などへの寄稿、セミナーでの講演などをこなす。個展「夢花シリーズ」「亜細亜紀行」など。グループ展、団体展へは多数参加。社団法人日本写真家協会会員。



●用途に合わせたレンズ選択

レンズの評価というのは人それぞれです。他人がどう評価しようと、自分が好きな描写であれば、本人にとっては一番のレンズになると思います。私はどうかというと、「レンズの味」が結構重要だと考えています。ボケ味だとか、空気感やシャープさ、といった感じですね。言えることは、MTFや解像力、収差補正といった数値だけで好みの描写が得られるかというと、そうではないということです。

そうしたレンズの描写をバックアップするのは、ボディ性能です。デジタル一眼レフ黎明期の頃に比べると、現在のボディはレンズの味を醸し出すことができるようになったと感じています。たとえば、オリンパスE-5はレンズの性能をとことん引き出すエンジンが素晴らしく、12Mクラスとは思えない解像感を提供してくれます。ダイナミックレンジはソニーα900がダントツで、α系とカールツァイス系、異なるレンズの味をしっかり描写してくれます。ペンタックスK-5やK-7もD-Range補正機能を使うと、α900以上の広大なダイナミックレンジが得られます。ニコンやキヤノンはそつのない仕上がりで優等生的。安心感はピカイチと言えるでしょう。

では、レンズでこの1本を選べ、というと、これは難問です。それは、私がレンズをチョイスするときは、ボディとの組み合わせで最適なレンズを選んでいるため、答えが多々あるからなのです。具体的には人物の肌を柔らかく描写し、かつボケ味を重視する場合はソニーαレンズやペンタックス、カチッとした描写が必要なときはソニーカールツァイスレンズ、解像感や空気感と共に防塵防滴性が必要なときはオリンパス、動体追随性やAF測距性能を重視すればニコンやキヤノン、という使い分けです。つまり、撮影目的(撮影意図)によって選択している、といってもいいでしょう。目的によって好きなレンズを選んでいる訳です。

と言ってしまうと、このコラムにはなりませんから、いろいろ考えた末に、ペンタックスの「DA 35mmF2.8 Macro Limited」をこの1本に決定しました。



▲絞り開放で撮影。ほぼ最短撮影距離で撮影していますが、マクロレンズとしてのシャープな描写はそのままに、水滴が実に立体的に描写されています。平面的に撮れるマクロレンズとは一線を画す描写です。35mm/1/13秒/F2.8/ISO200 (クリックで拡大)



▲カラーのしべ部分にピントを合わせ、花弁の部分を大きくぼかしてみました。この柔らかいボケ味はマクロレンズとしては秀逸。個人的に好きな描写です。35mm/1/5秒/F3.5/ISO200 (クリックで拡大)



▲焦点距離が35mmですから、ボケ方は50mmや100mmクラスのマクロレンズとはちがいます。でも、背景に気をつけることにより、50mmクラスのレンズと同じようなボケ具合を得ることができます。35mm/1/160秒/F3.5/ISO200 (クリックで拡大)

●こだわりを貫いたマクロリミテッド

ではなぜ、DA 35mmF2.8 Macro Limited(以下マクロリミテッド)なのか、ということですが、一般的にマクロレンズ(マイクロレンズ)は、平面を絞り開放で撮っても、周辺まで比較的シャープに写ります。絞れば、よりシャープさは増して、全画面カッチリした描写になります。おおよそ、像面湾曲の補正が十分に行き届いているものと思われますし、全体的な収差補正という視点で見ても、マクロレンズは完璧に近いレンズといえます。しかし、作品を創るという観点からみてみると、マクロレンズはちょっと違和感があります。冒頭書きましたが、完璧な収差補正=理想のレンズ=好きなレンズ、ではないからです。言い方を変えれば、残存収差をどう活かすかが、写真家にとって良いレンズか悪いレンズかを評価するときの境目といえます。さらに言い換えれば、ここがレンズの味を左右するポイントであり、メーカーの色を出せる要所でもあるといって、過言ではないでしょう。

マクロリミテッドは、通常のマクロレンズの収差補正とは異なっています。平面の被写体を撮ったとき、絞り開放では画面中央にピントを合わせると、周辺がややアウトフォーカスになります。絞り込めば全画面シャープに写るものの、絞り開放付近の描写は従来のマクロレンズ的な描写ではありません。また、一般的にマクロレンズのボケ味はよくありません。シャープさを重視することによって、ボケ味は多少犠牲になっているようです。

ペンタックスのマクロリミテッドは、そうした従来のマクロレンズ的描写から外れています。とくに絞り開放付近で撮影するとよく分かるのですけれど、ピントが合った部分はシャープでカチッときつつ、ピントが外れるにしたがって連続的にボケていきます。急に大きくボケていく感じはまったくありません。さらに、像面湾曲を若干残しているようですから、実に立体的な描写になるのです。だから、ボケ味は一般的なマクロレンズと、ひと味もふた味もちがいます。

こうした結像をするというのは、ある意味、理にかなっていると思いました。なぜかというと、我々が撮る被写体は2次元より3次元の被写体を撮る方が圧倒的に多いのですから、立体的に撮れるレンズの方が理想的ではないでしょうか。少なくても、私にとっては理想のマクロレンズということになる訳です。

こうした特徴のあるレンズを開発したというのは、ペンタックスのこだわりです。それは、写りに対するこだわりはもちろんのこと、鏡銅の作りからしてこだわっています。マクロリミテッドは質感が非常によく、比較的小型・軽量ながら、重厚感、存在感がしっかりしています。しかも、レンズキャップの作りもこだわっていて、アルミ削り出しというだけでも十分なのに、キャップの裏側に反射防止処理を施しています。一見、必要のないことかもしれませんけれど、それを製品化してしまうこだわりは個人的に好きです。

ペンタックスにはマクロリミテッド以外にも、リミテッドの名を冠するレンズがラインアップされています。いずれも、描写はマクロリミテッドと同様に、シャープさと柔らかさの融合、ボケ味が存在します。鏡銅の作りもフードもレンズキャップも手抜きはありません。しかも、広角から望遠までが同じようなテイストです。したがって、個人的にはペンタックスKシリーズを使う場合、基本は単焦点リミテッドレンズとの組み合わせになります。ズームレンズにはない、撮る気持ちを高揚させるレンズであると思います。




▲レストランウエディング撮影でのイメージカットです。通常、後ボケを重視しているレンズが多い中、前ボケも考慮に入れたボケ方は絶品です。35mm/1/60秒/F3.2/ISO400 (クリックで拡大)


▲通常のマクロレンズとは異なるボケと立体的な描写をいかして、あえて食器への写りこみをレストランの隠れた雰囲気描写として利用してみました。35mm/1/100秒/F2.8/ISO400 (クリックで拡大)




▲インテリア撮影中のカットです。カット写真であっても、手抜きのない、立体的な描写が期待できるマクロリミテッドなので、イメージ撮影に最適な1本といえます。35mm/1/125秒/F2.8/ISO200 (クリックで拡大)



▲マクロリミテッドは35ミリフルサイズ換算、53.5mm相当の画角をもつ、標準レンズとしての性格を持っています。だから、スナップ撮影にも標準レンズ的な素直な視点で撮影することができました。35mm/1/1000秒/F2.8/ISO800 (クリックで拡大)





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