・プロが愛用するコンパクトデジカメ

・私のレンズ、この1本





このコーナーでは、毎回プロカメラマンが愛用しているレンズについて、
作例とともに語っていただく。




▲1D系のボディに付けるとバランスが良く、三脚使用時でも手持でも取り回しが良い。ボディのロゴを隠してあるのは、他のカメラメーカーへ取材に行く場合の配慮。手ぶれ補正機能が向上した新型の「EF70-200mm F2.8L IS II USM」も発売されている



No.05


キヤノン
「EF70-200mm F2.8L IS USM」



文:藤井 慎(フジイ マコト)
富山県生まれ。ソフトバンク出版事業部を経てフリー。PCや関連機器などIT関係の雑誌・広告を多く手がけている。音楽誌やカメラ誌などでも活動中。著書に、愛車をかざる-LEDイルミネーション(ソフトバンクムック)がある。



●応用範囲の広い望遠ズームレンズ

70~200mm F2.8」というスペックの望遠レンズはフィルムの時代からレンズ交換式一眼カメラ用レンズの定番だ。カメラメーカー、レンズ専門メーカー、いずれも古くからラインアップされており、職業カメラマンなら誰もが持っているレンズだ。

 デジタルカメラがまだ一般的になる前の1990年代後半、その頃の私はニコンの機材を使っていたが、記者発表会の撮影に出かける時は標準レンズの他にいつもAF 80-200mm F2.8Dをバッグに入れていた。ステージから近い前方の席さえ確保さえすれば、ワイド側で人物全身や2~3人が並ぶ絵が、テレ側ではバストアップから顔の表情に迫るアップの写真まで撮れるから画角で困るということがない。この領域がシームレスで使えることは、毎回ベストのポジションから狙えると限らないスタジオ外の撮影ではとても重宝した。

 ニコンAF 80-200mm F2.8Dも欠点が少なく性能の良いレンズだったが、その後機材一式をキヤノンに変更した時に導入した70-200mm F2.8mm USMの便利さにはとても満足した覚えがある。

 ニコンF4は当時として高いAF精度を持つボディであったが、当時の超音波駆動でないモーターでボディ側からギコギコとレンズを動かすシステムは、性能はともかくフィーリングがあまり気持ちよいものではなかった。加えてフォーカスは手で合わせた方が正確でプロらしいという妙な偏見も残る古い時代であり、現場で大きなAF駆動音を出すことに抵抗も感じられ、結局AF対応レンズなのにマニュアルで使う人も多かった。

 超音波リングのUSMモーターを搭載したキヤノンのレンズであれば、耳に響く音を出すことなく手より早い速度でフォーカスを合わせた後、さらにリングを回して微調整もできるということで、AFとMF双方の利点を集約したという点で一歩抜きん出たものであった。重さがあるものの、前後の重量バランスが比較的良いため、手持ちで撮る時にブレにくいのもポイントが高かった。



▲画面右下に強い太陽の反射があるが、ゴーストが出ることもなく、高いコントラストで描写できている。解像度も高い。160mm/1/664秒/F8/ISO200 (クリックで拡大)



▲遠方部分を引き寄せることで、桜を肉眼で見るより密集した感じに写している。155mm/1/512秒/F7.1/ISO100 (クリックで拡大)



▲背景が整理しにくい撮影状況の時でも、ポータビリティを犠牲にすることなく手軽にぼかすことのできるこのレンズは強い味方だ。200mm/1/160秒/F2.8/ISO200 (クリックで拡大)

●デジタルカメラ時代にさらに進化

 その後、デジタルカメラを使う機会が多くなった頃に、手ぶれ補正機能が装備され光学系も一新した「EF70-200mm IS USM」に変更した。手ぶれ補正のために光学系は増えているため、画質は多少落ちているんじゃないかという不安があったのだが、スコンと抜けたような高いコントラストとキリっと気持ちいい解像度の高さは健在で、逆に応用範囲が広がることになる。超望遠レンズでは案外長くて困ることの多い最短撮影距離がこのリニューアルでかなり短縮されていることも、実際の現場で助かる良い改良点だ。

 コンサート会場でアーティストを撮影する場合もこの焦点距離がぴったりとマッチして使い勝手が良かった。VTRの同時撮影が入るような超大型のコンサートを除けば、通常スチルカメラマンは観客の最前列とステージの間にある1~2mの隙間から撮影することが許されているものだが、ここから70-200mmでEOS1D系の1.3倍画角で狙うとボーカリストやギタリストの全身に近い絵から表情のアップまで楽に撮ることができるため、必要なカット数の実に7~8割はこのレンズで賄うことが可能になる。300mmF2.8のような重さがないためステージの右に左に観客席にと動き回る場合こともそれほど苦にならない。EF70-200mm IS USMは開放絞りでも十分に高い画質が得られるため、ISO 1600程度の設定でも動きのある演奏者をなんとか写し止めることができる。高い手ぶれ補正能力は、このようなシーンに最適で、撮った画像が実際に使えるカットとなる「ヒット率」を格段に高めることができた。

 背景を大きくぼかすポートレートの用途はこの焦点領域のレンズの得意技だが、一番ぼかす効果の高い開放絞りの画質が十分に信用できることは、利便性を大きく高めている。また、一般の方は意外に思われるかもしれないが、超望遠レンズは風景にもよく使われる。

 撮影ポジションの移動が難しいか不可能である場合に、必要な範囲の画角をきっちり切り取って写真をその場で完成させられるのに望遠ズームが都合がよいことは言うまでもないが、それだけではなく、超望遠域では遠近感が弱まるような感じに写るということが重要だ。この効果により遠景が実際に目で見た感触より近景に近くなっているかのように写したり、木々の密集度を肉眼よりも強調して迫力を増したりということができる。これは風景写真において欠かせない。風景においては高い解像度や、色が偏ることのない再現性の高さが非常に重要なスペックだが、その点においてこのレンズは気になる点がほとんどなく、安心して撮影に専念できる。

 標準レンズやマクロレンズに比べれば、多少特殊な部類に入る方の交換レンズではあるが、その用途は意外に広く、また機動性と超望遠の両立が必要な用途では欠かすことのできない重要なものである。



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